フォークやアンビエントを中心としたアメリカのカセットレーベルGarden Portal。毎回限定150本のカセットを、アメリカ、カナダを中心に販売していた。日本からの直接注文はカセット1本で送料で20,000円以上取るので、フィジカルに拘ると厳しい状況であった。昨年10月リリースの5作品がやっと日本で扱うところが出てきて、何とか購入することが出来た。この事を前回の記事 “4月のディスカホリック” で書いている。本日はその中からMagic Tuber Stringbandを紹介します。
Magic Tuber Stringband / Wind Machines
Courtney WernerとEvan Morganの2人によるMagic Tuber Stringbandは、ノースカロライナ州ダーラム を拠点に活動を行っています。これまでに3本のカセットアルバムをリリースしており、“Wind Machines” が3作目であります。Courtney Wernerのフィドル、Evan Morganのギターを中心にハーモニウム、ビオラなど駆使してフォーク、アンビエント、ドローンをアパラチアン音楽の雰囲気で纏め上げた全6曲を収録。このアパラチアン音楽というのは、アパラチア山脈周辺地域の東アメリカで生まれた伝統音楽でカントリーやブルーグラスの元になった音楽とされています。Magic Tuber Stringbandの根底に流れるアパラチアン音楽に現代の要素を巧く組み合わせたといっても良いのでしょうね。全編通して非常に心地良く鳴り響かせています。
興味深いのは2曲のヴォーカル曲が、いずれもカヴァー曲であります。3曲目 “Angel of Death” が、若くして亡くなった伝説のカントリーシンガーHank Williamsの50年代の曲です。そして5曲目 “Noble Experiment” が90年代のローファイ・カルトバンドThinking Fellers Union Local 282の傑作アルバム “Strangers From The Universe” からの曲であります。この異なる2曲をカヴァー曲として収録するMagic Tuber Stringbandの感性に驚いてしまった。歌詞とオリジナル曲をアップしますので、聴き比べてくだい。
Hank Williams-Angel of Death
死の天使があなたのうしろに降りてくる
あなたは笑いながら言えますか?
自分は間違っちゃいなかったと
正直に言えますか?
死にかけの息をして
死の天使に会う準備をしながら
Thinking Fellers Union Local 282-Noble Experiment
人間であることをやめる時が来たのだ
新しい生き物を見つける時だ
魚や雑草やスズメになりなさい
地球は疲れ果て、あなた方の時間はすべて失われたのです
この2曲の歌詞からHank WilliamsとThinking Fellers Union Local 282の不思議な共通点を見出すことが出来ますね。今の時代を表している様にも思う。
Hank Williamsについては、何も情報を持っていませんが、Thinking Fellers Union Local 282は好きなバンドだけに嬉しいです。Noble Experimentはアルバム “Strangers From The Universe” のラスト曲で、カオスティックにガチャガチャと掻き鳴らす曲が多い中で、最後にしっとりとバラードで締めくくっています。Magic Tuber Stringbandのお陰で、Thinking Fellers Union Local 282について、歌詞も含めて再確認することが出来ました。
もう一つ興味深いのは、本作のライナーにMark Fossonの人生、記憶、そして精神に捧げると書いています。Mark Fosson(1950-2018)は70年代後半にアコースティックギターのカリスマJohn Faheyに送ったデモ音源が気に入られ、アルバムデビューが約束されます。しかし、寸前でリリース元が買収されたことで、幻と散ったケンタッキー出身の不運の無名天才ギタリストです。2000年代中頃より当時の音源がやっとリリース。2017年には新作もリリースされています。Magic Tuber StringbandのギタリストEvan MorganがMark Fossonのギター奏法に影響を受けているのは確かですね。
最後にMagic Tuber Stringbandのインスタグラムで今年3月のライブの様子がアップされていました。今後も注目していきたいバンドです。