ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

Lowの新作 ”Hey What” 異次元の世界へと達した最高傑作!

USミネソタ出身のAlan SparhawkとMimi ParkerによるインディーズバンドLow。13作目となる凄いアルバム “Hey What” がリリースされました。彼らの20年前の2001年初来日を今は無き原宿アストロホールで観ています。思入れもあるバンドですが、このブログでは取り上げていませんでした。今回は “Hey What” を含めてLowについてあれこれ書きたいと思う。

 

まずはLowのバイオグラフィ的なことを書きます。1994年に3人組としてアルバム・デビューします。インディーズ界の異端児Kramerが、1st “I Could Live In Hope”と2nd “Long Division” のプロデュースをしたことで注目されました。初期から中期にかけてLowを支えていたベーシストZak Sallyは2ndからの参加でした。当時、隆盛を誇ったグランジへの反発として、物憂げなメロディとスローテンポなリズムをミニマリスティックに掻き鳴らしていた音楽やバンドなどをスロウコアと呼んでいた。Lowはその先駆者的な存在でもあった。

 

1999年にシカゴの実験的なレーベルKrankyに移籍。1999年 “Secret Name”、2001年 “Things We Lost in the Fire”、2002年 “Trust” の3枚のアルバムをリリースしている。個人的に “Things We Lost In The Fire” が好きなアルバムで、レコーディング職人として売れっ子だったSteve Albiniがレコーディング、ミックスに参加していました。有名なChristmas限定アルバムをリリースしたのもこの時期ですぐに廃盤となったが、のちにKrankyがリイシューして、現在はSub Popが何年か期間を空けてリイシューしてる。この頃のLowが好きなファンが多いのも確かです。その後、バンドとしての様々な試みが始まります。

 

2004年にSub Popに移籍して “The Great Destroyer” をリリース。オルタナティブ色を強調していて、これはこれで良い感じに纏め上げていたが、どことなく普通のロックバンドになった感じがしていた。2005年にベーシストZak Sallyが脱退。代りのベーシストを入れて、様々な要素を取り入れたアルバム ”Drums And Guns” を2007年にリリース。ちょと違うと感じがして、これでLowも終ったと思ったが、商業的には大成功を収める。新たなファンを獲得する一方で、1部のファンが離れていたのも確かであった。

 

そんな中、あのRobert Plantが2010年のソロ・アルバム “Band Of Joy” でLowの “The Great Destroyer” からの曲を2曲もカヴァーしたのでした。“Band Of Joy” のプロデューサーBuddy MillerがLowの音楽を紹介したようです。Robert Plantはインタビューで「The Great Destroyerは素晴らしい音楽だ!Jerry Lee LewisとHowlin' Wolf のそばでいつも家の中で遊んでいる。すべての余地がある」と語っています。普通のロックバンドになった・・・じゃなかったですね。慌てて何回も聴き直してしまった。Alan Sparhawkはサイドプロジェクトでブルースやゴスペルを中心としたバンドThe Black-Eyed Snakes、Retribution Gospel Choirなどでも活動していたことをその時に知った。Alan Sparhawkの音楽センスはただ者じゃないことを再確認したのであります。

 

“The Great Destroyer”からのMonkeyとSilver Riderの2曲が、Robert Plantにカヴァーされています。両方アップしますので聴き比べてください。

 

2011年に4年振りとなる新作 “C'mon” をリリース。4年のインターバルはLowにとっては長い期間だったのです。Robert PlantのカヴァーはAlan SparhawkにLowと向き合う切っ掛けなったのかもしれませんね。それで、Lowが出した回答は原点回帰と言える90年代後半から2000年代初期のサウンドでした。この“C'mon”のサウンドでLowが戻って来たとホッと一安心したファンも多いと思う。その流れを引継いで2013年にWilcoのJeff Tweedyプロデュースで “The Invisible Way” をリリース。アルバムデビュー20周年ということもあってこれまでのLowの集大成を表したアルバムとなった。

 

2015年リリースのBJ Burtonをプロデューサーに起用した “Ones And Sixes” は、Lowらしさを維持しつつも、ザラついたサウンドとエレクトロニックなリズムを駆使したアルバムとなった。新たな展開と思っていたが、これはまだ序章でしかなかったのです。続く2018年リリースの ”Double Negative“もBJ Burtonプロデュースで、彼らのこれまで培ってきたスロウコア的サウンドにノイズやシンセの音が鏤められて、よりダイナミックで幻想的に聞えます。 この変貌ぶりに驚いてしまったが、もう後戻りは出来ないといった彼らの信念を感じたアルバムだった。

 

 

Low / Hey What

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2021年9月にリリースされた新作 “Hey What” は、前作”Double Negative“ と同じくBJ Burtonをプロデューサーに起用して、ノイジーともアンビエントとも捉えられる音像を散りばめながら、歌物アルバムを作り上げたのです。Alan SparhawkとMimi Parkerのヴォーカルは一点の迷いもなく力強く歌いあげてくる。彼らの祈りに満ちた歌声はゴスペル、賛美歌の世界なのです。個々の歌も凄いのですが、やはり2人のハーモニーは圧巻です。ここまでポジティブなLowはこれまで無かったと思う。

 

凄いのは歌だけじゃ有りません。2人の歌を支えるサウンドも凄い。インダストリアル・ノイズからグランジギターまで駆使して荒っぽく攻め込んできます。かと思えば、無機質な音を延々とアンビエントさせて歌の精神的な凶暴さも醸し出している。歌とサウンドとのせめぎ合いを感じつつ、時には真っ向からぶつかり合いながら、不協和音を繰り返して高揚感を感じさせるアルバムです。

 

全10曲収録で曲間が無いまま次の曲へ入っていく。アルバム全体で一つの物語を築き上げようしています。スロウコアという原点を押さえつつ、これまで培ってきたなエッセンスを凝縮させて異次元の世界へと達した最高傑作! ジャンルの垣根を越えて様々な音楽ファンに聴いて貰いたい1枚。もちろん、2021年のベスト・アルバムであるのは言うまでもありません。

Lowは来年のロサンゼルスで行われるPrimavera Soundフェスに出演することが決まっている。“C'mon” の時より参加していたベーシストSteve Garringtonは脱退して本作には参加してない。はたして、どんなスタイルでライブを行うのか興味芯々です。施肥ともフジロックにも出演して欲しい!

 

全10曲、どの曲も素晴らしいのですか、これだと思う3曲をYouTubeでもアップしておきます。