ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

Modern Natureのメンバー Jack CooperとTara Cunninghamによるデュオ・プロジェクトThe Sleevesのファースト・アルバム!

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The Sleevesは、ロンドンを拠点に活動するインディーロック・バンドModern NatureのメンバーであるJack CooperとTara Cunninghamによって結成されたデュオ・プロジェクトです。Jack Cooperはソロも含めて様々なバンドで活動したあと、2019年にModern Natureを結成。当初はソロプロジェクト的で流動的なメンバーであったが、マルチに活動しているJeff Tobias(Thee Reps、Sunwatchers)とWill Young(Beak>)の2人が定番メンバーとなってModern Natureサウンドを構築。そして、2025年にTara Cunninghamが初参加したModern NatureのアルバムThe Heat Warpsで、新たな魅力を引き出し大きく評価されていったのです。その勢いのまま、The Sleevesとしてのファースト・アルバムを2026年5月にレーベル12XUよりリリースしました。

 

The Sleeves / The Sleeves

Jack CooperとTara Cunninghamのヴォーカルとギターによる相互作用に焦点を当てた、全10曲を収録しています。お互いにママス&パパスやサイモン&ガーファンクルの音楽を聴いたり口ずさむことから、往年のフォークやポップスからの影響を感じさせる美しいハーモニーが魅力です。その一方で、即興演奏による予測不能なギターワークがサウンドスケープの様に掻き鳴らされる。その音色は、鳥のさえずり、鐘の音、ラジオの雑音といったイメージを漂わせてくる。このシンプルで飾り気のないサウンドに空間という音響テクスチャーを組み合わせながら、The Sleevesの世界を構築している。Modern Nature からベースとドラムが抜けただけのサウンドではない。2人が持っている力量が最大限に凝縮された傑作。聴く者に不思議な心地よさを与えてくれる1枚です。

 

The Sleevesは、「ギターとボーカルの使い方において、馴染みのある要素と未知の領域が刺激的に融合した作品です。完全にジャンルレスで曖昧な領域こそが、私たちの真価を発揮する場所のようです。これは他の誰にも作れない音楽だと感じています。」と語っている。日本の音楽メディアele-King では “Still House Plantsがプロデュースしたサイモン&ガーファンクル“ と称されています。この例えにびっくりしたが、思わず納得した。海外の音楽メディアNo More Workhorseは、「音楽的に、最も静かな時期のTelevisionを彷彿とさせます。」と書かれている。The Sleevesの ”完全にジャンルレスで曖昧な領域“ に通じるような気がする。

 

ele-Kingのレビューです。

No More Workhorseのレビューです。

 

Tara Cunninghamは、Modern Natureに正式加入するまえに、Jack Cooperとコラボレーションしていた。その音源は、2025年1月にカセットとしてMossy Tapesよりリリースされています。2本のギターによる即興演奏です。まだ、お互いのヴォーカルについては、理解していなかったのかな?

 

 

 

Modern Natureについて書いています。

Tara Cunninghamが参加した2026年のアルバムThe Heat Warpsです。

Tara Cunninghamが参加してない2021年のアルバムIsland Of Noiseです。是非とも聴き比べて欲しいです。

 

 

Blodの実在しない映画のサウンドトラック

Blodは、スウェーデン・ヨーテボリのアンダーグラウンドシーンを中心に活動するマルチミュージシャンGustaf Dickssonによるソロプロジェクトです。2014年頃から活動を開始し、独自のDIYアート・ロックやフォーク・ミュージックを展開しています。2020年にはMatthias Anderssonと一緒にレコードショップ兼レーベルDiscreet Musicを立ち上げ、北欧のみならず、世界のアンダーグラウンドシーンや実験音楽の重要な発信地となっています。本日は2026年4月に自身のレーベルDiscreet Musicよりリリースされた新作 Förlorarnas Natt を取り上げます。

 

Blod / Förlorarnas Natt

本作はこれまで何作か続いたGustaf Dickssonのギターとヴォーカルを中心に、多彩なゲストがバックヴォーカルやコーラスで参加する伝統的なフォーク展開ではありません。前作 Den Oändliga Historien(ネバーエンディングストーリー)を取り上げた時に、この路線に終止符を打とうとしているのかもしれません、といったことを書いていた。まさにその通りで、全編インスト作品で新たな方向を示しています。過去にアンビエントやサウンドスケープ的な作品はありましたが。

 

今回は 実在しない映画のサウンドトラックというシネマティック・コンセプトのもとで作られています。ある若者が金曜日の夜を過ごす中で、大人の世界へ一歩を踏み出す無邪気な希望、傷つきやすい心、そして大人たちの裏切りや破られた約束といった物語が、音楽を通じて描かれています。Gustaf Dickssonはこのサウンドのインスピレーションとして、スウェーデンの映画音楽作曲家Björn Isfält(1942‐1997)、スウェーデンの世界的なポップ・グループであるABBAのメンバーBenny Andersson、さらにはイタリアの伝説的な歌姫Patty Pravo、イタリアの伝説的な作曲家Piero Umiliani(1926‐2001)を上げている。それとFörlorarnas Nattのアルバムジャケットは具体的な情報はないけど、たぶんPatty Pravoの肖像画だと思う。

サウンドはドラム以外のすべてをGustaf Dickssonが担っており、DIYを追求している。インスピレーションを受けたアーティストの影響なのか、どことなく70年代のノスタルジックでメランコリックな雰囲気を醸したインディーなムードポップを現代に蘇らせている。アメリカの音楽サイトPitchforkでは、Gustaf Dicksson のことを1960年代末から1970年代にかけてスウェーデンで大きく巻き起こったプロッグ・ムーブメントの精神的後継者と称している。これは反商業主義と政治思想が結びついた独自の音楽・文化的運動であり、幅広いジャンルを取り込んでのDIY精神に満ちた遺産であると綴っている。凄いですね。個人的にはこのシネマティック・コンセプトに基づいた映画を作って欲しいと思いますが。

 

 

 

インスピレーションを受けたアーティストとしてBjörn Isfält、Benny Andersson、Patty Pravo、Piero Umilianiの4人を上げているが、ほとんど知らないので適当に音源をアップしてみました。あとBenny Anderssonが在籍していたABBAは、Blodのアルバム名にABBAと付いた作品があります。本作でもBennyという曲が収録しています。Gustaf DickssonのABBAに対する思いが伝わりますね。

Björn Isfält

Benny Andersson

Patty Pravo

Piero Umiliani

 

 

 

Blodについて、色々と書いています。

 

 

Brokenchordの新作、モータリック・グルーヴとノイジーなギターや電子音が絡むスリリングでエモーショナルな世界

brokenchord (@brokenchord_) • Instagram photos and videos

BrokenchordはリトアニアのマルチミュージシャンErnestas Kausylasによるソロプロジェクトです。Thom Yorkeに才能を見出されRadioheadのミックス・コンピレーションアルバム TKOL RMX 1 2 3 4 5 6 7 に参加していました。このアルバム、Caribou、Four Tet、Jamie XXといった錚々たる面々がいるなかで、BrokenchordとしてGive Up The Ghostをミックスしています。他にも舞台音楽や映画音楽なども手掛けており、リトアニアの演劇賞 Auksinis scenos kryžius の音楽部門でノミネートされたこともあるようです。本日はアムステルダムを拠点とする新進気鋭のレーベルSouth of Northより2026年7月にリリースされた3作目となる新作 Lima Echo Crack! を取り上げます。

 

Brokenchord / Lima Echo Crack!

これまで培ってきた電子的なポストロックというよりも、ノイジーなギターを中心としたクラウトロック、サイケデリックへと向かっている。さらにベースとドラムのゲストミュージシャンを入れてバンド編成の生々しさを表していると思う。そこにErnestas Kaušylasの得意分野である電子音楽やミックスを駆使して、ダークな雰囲気を醸しながらスリリングでエモーショナルな世界を構築してくる。冒頭1曲目 Prowler の不穏な電子音SEからざらついたギター音が入ってくる辺りは、何とも言えずに高揚感が増してくる。2曲目   MKUltra Scarecrow のダウナーでルーズな浮遊感溢れるヴォーカルが心地いい。後半の3曲、PBR、Tomorrow Knows、Liquid Mind Experimentは、さらにカオティックに鳴り響く。クラウトロック風のモータリックなグルーヴとノイジーなギターや電子音が巧く絡み合う。このサウンド全体から漂う音響質感は、電子音楽出身であるErnestas Kaušylasだからこその技だと思う。素晴らしいです!

 

本作は一人の男がシステムへと取り込まれていく心理的な崩壊を描いたコンセプト・アルバムとのことです。レーベルSouth of NorthのBanndcampには、“冷や汗をかきながらホテルのベッドに横たわり、天井の扇風機がゆっくりと回転し、ヘリコプターやドローンのフラッシュバックが脳裏をよぎる。目を閉じても、ストロボライトと爆発ばかりだ。どうする?逃げる?それとも留まって任務を完遂する?その間にも、ラジオの雑音を通して聞こえる音がモーターリックパルスに変わり、複合施設のクリック音やカチカチ音、暗号解読、ゾーン要素認証が、リスナーを再プログラムし、残るのは混乱した人間だけとなる。” と書かれている。サスペンス映画の予告のような感じです。これを頭に入れながら聴くのも有りですね。

 

 

本作のリリースを記念したパーティーでのライブ映像です。50分近くあります。暇な時にでも覗いてみてください。

 

 

2026年8月のディスカホリック

8月24日付けamass.jpの記事でCD復活の記事が出ていた。これについて書こうと思っていたら、ブログ仲間のShigeo Hondaさんも取り上げていた。海外のBandcampでも、これまではレコードとカセットが中心となっていたが、このところCDもしっかりと掲載されるようになってきた。やはり需要があるということなのでしょうね。40年以上前CDが出た時に、レコード会社の新人営業マンとしてレコード店にレコードを売るために駆けずり回っていた。その数年後には、レコード店からCD店へと一気に変わっていたことを現場で確認してきた。対応しきれないところは淘汰されていく。それは凄まじい状況であった。まあ、自分のところも淘汰されたけどね。日本の場合、レコード会社の親会社が家電メーカーであったことも多くて、CDプレーヤーを売るためにレコードでの新作を出さなくなったことも大きい。海外では一定数のレコードは作られていたけどね。

2000
年代に入ると音楽ストリーミングの普及でデジタル音源が中心となりつつあった。CDは元々デジタルデーターをフィジカルとして形にしただけなので、どうなっていくのか興味をもっていた。2000年代中頃は年間400枚以上のCDを買っていただけにね。やはりCDの売り上げは落ちるなかで、レコードやカセットが見直されるようになった。デジタル音源といった実体のないものよりも、フィジカルで持ちたいというリスナーが多くいたのでしょうね。それと1曲ごとではなく、アートやパッケージを含めて作品全体としてのメッセージを問うアルバムが多くなったことも要因のひとつかな? 個人的な感想ですが。それだけならレコードだけで充分だけど、もっと価格的に安くて簡単に扱うことのできるCDに向かうのもありだと思う。海外からレコード1枚だけ注文すると送料含めて1万円ってこともありますから。あとShigeo Hondaさんが言っているように「ストリーミング疲れ」もありますね。なんでも聴けるということは、何も残らない気もする。聴き方を否定するつもりはない。ただ個々の聴き方の選択肢が増えることは大歓迎です。

 

 

 

20268月ディスカホリックは、レコード3CD3、カセット1の計7作品の購入実績でした。このところ、タワーレコード・オンラインで購入することが多くなっています。昨年は4作品しか購入してないのに、今年はすでに14作品も購入している。新作の予約受付が意外と早かったり、コアなものでも取り寄せが可能だったりする。その分、アマゾンでの購入は減っているけどね。

Tara Clerkin Trio / Somewhere Good(CD) 購入先Tobira records 購入価格2,848円

イギリス・ブリストルを拠点に活動するアヴァン・ポップバンドTara Clerkin Trio20266月リリースの新作。ローファイで様々な要素を絡めながら、ほのぼのとした雰囲気が心地いい。癒されますね。

 

 

Nein Flower / Nein Flower(Cassette) 購入先Tobira records 購入価格3,173円

ベルリンを拠点とするNein RodereDavid Roeder)とアメリカ・ホートランドを拠点とするNowhere FlowerLila Jarzombek)のカセットによる2026年リリースの初コラボレーション。アウトサイダーなフリーフォークを奏でています。2人とも好きなアーティストだけに嬉しい!

 

 

Brokenchord / Lima Echo Crack!(Vinyl) 購入先 Meditations 購入価格5,788円

レーベルSouth of Northより20267月リリースのリトアニア出身のマルチミュージシャンBrokenchordの新作。ダークでダウナーな雰囲気を醸しながらクラウトロック、サイケデリック・ロック、ポストロック、エレクトロニクスを奏でています。最高にかっこいい!個人的には2026年アルバム・ベスト10入りの1枚です。

 

 

Seefeel / Sol.HzCD) 購入先Tower Record Online 購入価格2,860

2026年5月リリースの新作。ここ数年のライブは、Mark Cliffordが一人でギターやハードウェアを操るパフォーマンスなのですが、アルバムとなるとやはりSarah Peacockのファルセット・ヴォーカルがあってこそのSeefeelですね。様々な要素を取り込んでSeefeelらしいサウンドを展開しています。

 

 

The Durutti Column / RenascentVinyl) 購入先Tower Record Online 購入価格5,290

 

The Durutti Column16年振りの新作。Vini Reilly2010年以降に3度の脳卒中を患い、一時は本当にヤバいと思っていただけに、この復活はすごく嬉しい!

 

 

Alan Licht / Havens2Vinyl) 購入先Tower Record Online 購入価格6,290

 

買いそびれていたアメリカの実験的ギタリストAlan Licht2024年リリースしたソロアルバム。今年5月の来日公演に行けなかったことを今更ながら悔やんでいる。

 

 

Ear Has No Lid / Unquestioned AnswersCD) 購入先Ear Has No Lid Bandcamp 購入価格2,860

上記でブログをシェアさせて頂いたShigeo Hondaさんによる自主制作プロジェクトEar Has No Lid3作目となる新作。本人は、「日々のサウンドスケッチから始まりました。計画されたことは何もありません。ただ音の動きだけがありました。電子的な即興演奏とiPhoneのフィールドレコーディングをループに切り、解体し、新しい形に再構成。その結果、馴染みのある音が静かに感情的なものへと溶け込んでいき、変化し続ける音の風景のコレクションが生まれました。」 そして「音楽の流れは明け方から夜までの1日のようなもの」と語っている。後半になるとより重厚なサウンドになっており、まさにサウンドスケープを表した作品です。素晴らしい!

 

前作同様に今回もパッケージにも拘っていて、A5サイズ12ページのフォトブックレットと一緒になっている。パッケージ含めて一つの作品というインディーズならではの発想も凄くいいです。参考までに、前作はこんなパッケージでした。

 

改めてShigeo Hondaさんのメイン・ブログです。

Ear Has No Lidのアルバム制作過程を綴ったブログです。

 

 

 

 

今月更新した記事です。

 

 

生きたまま天国へ連れて行ってもらえ!by Horse Lords

Horse Lords

2010年にアメリカ・ボルチモアで結成されたエクスペリメンタル・ロックバンドHorse Lords。サックス奏者Andrew Bernstein、ベーシストMax Eilbacher、ギタリストOwen Gardner、ドラマーSam Habermanによる4人組で、持ち味である純正律のチューニングやポリリズム、ミニマリズム、即興性などを独自に組み合わせたサウンドを構築してきました。本日はRVNG Intl.より20266月にリリースされた新作 Demand to Be Taken to Heaven Alive!(生きたまま天国へ連れて行ってもらえ!)を取り上げます。アルバムタイトルがメチャかっこいいです。

  

Horse Lords / Demand to Be Taken to Heaven Alive!

現在、Andrew BernsteinMax EilbacherOwen Gardner3人がベルリンとSam Habermanがボルチモアで離れて暮らす中、お互いの長年培った信頼関係によって地理的距離を越えて完成されました。さらに本作では、バンド史上初めてのゲスト・ヴォーカルを起用したバンドの音楽的探求をさらに押し広げた意欲作となっている。

 

冒頭曲 “Eureka 378-B” は、ゲスト・ヴォーカルNina GuoEvelyn Saylorによる19世紀の賛美歌集 The Sacred Harpのメロディーと、その歌詞から引用されたWe Seek a City Yet to Come(まだ見ぬ都市を追い求める)というフレーズから始まる。これまでにない出だしで一瞬驚いてしまった。2人のヴォーカル曲は、その後もRotation IIIIIIと続き、どの曲も短く曲間に挿入され他の曲とのメリハリを巧く演出しているように思う。そして10曲目 “A City Yet to Come” とラスト曲 "Demand to Be Taken to Heaven Alive!" に繋がっていく。Horse Lordsのアヴァンなサウンドと2人のヴォーカルとのバトルが、トランス状態へ引きずり込む。

 

賛美歌集 The Sacred Harpのメロディーとは、どのような物なのかサンプル音源が、ありますのでアップしておきます。歌詞のWe Seek a City Yet to Comeも記載されています。

 

ヴォーカル無しの曲でも2曲目 “Brain of the Firm” は、これまで培ってきた彼らの音楽要素をこの1曲にぶち込んだ名曲です。是非とも聴いて欲しい。それと9曲目 “After the Last Sky” は、パレスチナを代表する国民的詩人Mahmoud DarwishによるThe Earth Is Closing in on Us(大地は私たちを閉じ込めつつある)からインスピレーションを得た曲であり、パレスチナの現実を参照することで、多くの人にとってはいまだ手の届かない安全や安定の上に成り立っていることを問い直している。曲名であるAfter the Last Skyは、その詩からの言葉で、最後の空のあと、鳥たちはどこへ飛べばいいのか?と綴っている。

 

Mahmoud DarwishのThe Earth Is Closing in on Usの日本語訳の一例です。

大地は私たちを閉じ込め、最後の通路へと押しやる。
私たちはそこを通り抜けるために、自らの手足をちぎり取る。
大地は私たちを締め付けている。

私たちが大地の小麦であったなら、死んではまた生き返ることができるのに。
大地が私たちの母親であったなら、私たちに優しくしてくれるのに。

私たちが岩に刻まれた絵であったなら、
私たちの夢がそれを鏡として運んでいけるのに。

私たちは見たのだ。
この最後の空間の窓から、私たちの子供たちを放り出そうとする者たちの顔を。
私たちの星は、鏡を掲げるだろう。

最後の国境を越えたあと、私たちはどこへ行けばいいのか?
最後の空のあと、鳥たちはどこへ飛べばいいのか?

最後の呼吸のあと、植物たちはどこで眠ればいいのか?

私たちは緋色の蒸気で自らの名を記す。
私たちの肉体によって完成させるため、歌の手を切り落とす。

私たちはここで死ぬ、この最後の通路で。

 

紹介しきれなかったけど、6曲目 “First Galactic Utopia” と11曲目 “Second Galactic Utopia” は、ユートピアを探求している。ラスト3曲、A City Yet to ComeSecond Galactic UtopiaDemand to Be Taken to Heaven Alive! は、まだ見ぬ都市をユートピアとして最後は生きたまま天国へ連れて行ってもらえ!と纏めているのでしょうか? 

 

Horse Lordsの場合、インスピレーションを受けたものを様々な視点から捉えて、それを音楽として落とし込んでくる。音楽が機能するかどうかを確認するために同じセクションを何度も演奏するよりも、互いのコンセプトやヴィジョンを信頼することの方が重要であると語っている。ライブバンドとして評価の高い彼らですが、個々のメンバーは自らの感性に偽ることなく自由奔放に音を掻き鳴らす。本作も一歩間違えるとバラバラになりかねないところを、帳尻だけをしっかりと合わせて来る。これまで何作も聴いてきたHorse Lordsであります。こんな複雑で変態的なサウンドを奏でるバンドって、他にいるだろうか?と思ってしまった。いうまでもなく彼らの最高傑作です。

 

 

冒頭曲 “Eureka 378-B” からそのまま“Brain of the Firm”へと突入しています。最高にかっこいいです。

 

 

 

これまでもHorse Lordsについて書いています。

 

 

負の遺産を問うMagic Tuber Stringbandの野心作!

Thrill Jockey

ノースカロライナ州を拠点に活動するアヴァン・フォーク3人組Magic Tuber Stringbandアパラチアの伝統的なストリングス・ミュージックに実験的な音響や即興演奏を融合させた、独自のアヴァン・フォークを展開している。元はCourtney Werner(フィドル)とEvan Morgan(ギター)のデュオであったが、現在はMike DeVito(ベース、バンジョー)が参加しての3人編成となっている。本日は20265月にシカゴの老舗インディーズ・レーベルThrill Jockey Recordsよりリリースされた新作 “Heavy Water” を取り上げます。3人となってからの初アルバムです。

 

Magic Tuber Stringband / Heavy Water

本作の核となるインスピレーションは、Courtney Wernerがサウスカロライナ州の核兵器製造施設 サバンナ・リバー・サイト で生態学者として働いていた経験に基づいています。冷戦時代に重水(Heavy Water)やプルトニウムを製造するために、政府によって強制立ち退きを命じられた町エレントン(Ellenton)の記憶と、その深刻な環境状況をテーマに据えています。

 

アルバムタイトルのHeavy Water1曲目 The Death of Ellenton2曲目 Marker of a Drowning(溺死の徴候)は、彼らのメッセージを端的に表している。そして、3曲目 Sound of a Million Stars は、アメリカを拠点に活動していた映画監督 西川智也(19692025)の福島第一原発事故を題材にした短編映画 “Sound of a Million Insects, Light of a Thousand Stars” の影響をうけた曲です。この曲がアルバムの中でも一番ヘビィーでノイジーに掻き鳴らされる。続くWoodpeckers では、軍事演習の銃声とキツツキの音を対比させるなど、これまでになく直接的に攻め込んでくる。ただ、それ以降の曲のタイトルが、柔和なイメージがする。8曲目 Where the Place Becomes Forgetting(その場所が忘却へと変わるとき)、この地に町があったことを・・・、これが彼らの最大のメッセージだと思う。この曲は牧歌的であるが、もの凄く力強さを感じた。

 

現在のサバンナ・リバー・サイトは、プルサーマル用MOX燃料加工工場として再稼働する予定であったが、運用コストの増大のため計画自体が頓挫。再びプルトニウムを製造する工場へと方針を打ち出している。その負の遺産をMagic Tuber Stringbandは問うている。不穏に鳴り響くCourtney Wernerのフィドルと変幻自在に掻き鳴らされるEvan Morganのギターを中心に、それをしっかりとサポートしているMike DeVitoのベースとパンジョーが、失われた風景に祈りを捧げるインスト全11曲。そこにフィールド・レコーディングスやテープ・マニピュレーションを駆使してリアリティーを構築してくる。彼らのキャリアにおいて最も野心的なアルバムであると同時にしたたかさを感じた1枚です。

 

 

 

 Magic Tuber Stringbandについて、これまでも様々取り上げています。

 

 

Herb Loreのマントラのような瞑想的思想にインスパイアされたサウンドスケープ

ブルックリンを拠点に活動するギタリストHerb Lore。瞑想的な音楽や自然を称えるアンビエント、サイケデリック・ロックを奏でています。これまでに2作のアルバムをリリース。本日は20263月にアンビエントやポスト・ニューエイジを中心に取り扱うレーベルInner Islandsよりカセットでリリースされた2作目 “Mysticism” を取り上げます。

 

Herb Lore / Mysticism

本作はピューリッツァー賞受賞作家であるAnnie Dillard(アニー・ディラード)が1977年に発表した “Holy the Firm” の自然の美と残酷さ、そして神の存在や苦難をめぐる哲学的エッセイに影響を受けています。タイトルのMysticism(神秘主義)もそこからきていると思われる。

 

Herb Loreのギターが、繊細で美しく穏やかに、時折りラウドでファズに掻き鳴らされる。そこに自ら収集した自然や水辺の環境音が、フィールドレコーディングスとして組み込まれていく。さらにゲスト参加した、Sophie Sparnroftの幽玄な無言ヴォーカルとアップライトベース、Bosch Akramのクラリネットが、アルバムの魅力を引き立たせている。マスタリングはレーベル・オーナーSean Conradが行っている。しかし、ドラムに関するクレジットは何もない。

7曲の収録で、アンビエント・フォークからサイケデリック・ロックまで、マントラのような瞑想的思想にインスパイアされたサウンドスケープを展開。ストイックにすうっと心の中に忍び込んで行って、ラスト16分を越える曲 Enlightenment で轟音と共に自我崩壊へと変化していく。最後は荒波と一緒に流されていく構図は、かなりヤバいです!是非とも1曲目から通しで聴いて欲しい。

 

 

2025年リリースの1作目もアップします。デジタル音源のみですが、“Mysticism” が注目されたことで、フィジカルとして再発されることもあるかしれませんね。