ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

スウェーデンの男女デュオTreasury of PuppiesのLo-Fiベッドルーム・ミュージックからアンビエントまで網羅した不思議な世界!

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スウェーデン、ヨーテポリを拠点とする男女デュオTreasury Of Puppies。ジャケット・アートワークも行っているCharlott Malmenholtとソロユニットでも活動しているJoakim Karlssonの2人によって結成。2020年にアルバム・デビューして、今年2ndアルバム “Mitt stora nu” をリリースしました。Lo-Fiベッドルーム・ミュージックからアンビエントまで網羅した不思議な世界。

 

Treasury Of Puppies / Mitt stora nu

本作は地元のレーベルDiscreet Musicよりレコード・オンリーでリリース。Charlott Malmenholtのダウナーなヴォーカルやリーディング・ヴォイスに絡むサウンドアートなアンビエント、スロウ・コア的なギター、フィールドレコーディングされた音が走馬灯のように鳴り響いています。マスタリングはデビュー・アルバム同様にイタリアの実験音楽Giuseppe Ielasiが担当。レコーディングには敢えて古い録音機材を用いています。Lo-Fiな雰囲気を醸し出したいTreasury Of Puppiesの拘りなのでしょう。

 

"Rotten Apples Of Love"、“Dödens Soffa” そして “Mitt Stora Nu” の3曲は、Treasury Of Puppies流のロックを試みた、まさにLo-Fiベッドルーム・ミュージックといった趣です。一方で、 “Skriv När Du Är Hemma” や “En Blick I Blicken” の2曲は、Charlott MalmenholtとJoakim Karlssonのリーディング・ヴォイスに絡むアンビエントな世界。このように多彩で様々なアプローチを仕掛けていますが、心地よく独自の不思議なテクスチャーを築き上げています。マスタリングを担当したGiuseppe Ielasiの技が生きていると思う素晴らしい1枚です。

 

Treasury Of Puppiesの歌詞は、彼らが影響を受けたMare Kandre、Edith Södergran、Edgar Allan Poe、Britney Spearsについての叙事詩的な内容が盛り込まれているとのことです。Mare Kandre(1962-2005)は、エストニア系のスウェーデン人作家で、80年代にポスト・パンクバンドGlobal Infantilistsのヴォーカリストでもありました。Edith Södergran(1892-1923)はスウェーデン語を話すフィンランドの詩人で、スウェーデン語の詩と音楽の歌詞に影響を与え続けています。Mare Kandreも影響を受けた1人とのことです。Edgar Allan Poe(1809-1849)は日本でも知名度の高いアメリカの小説家。Britney Spearsは誰もが知っているアメリカの歌手で女優ですね。

 

これらの偉人達が歌詞にどのように反映されているか? 歌詞カードもなくスウェーデン語も分らないですが、勝手にイメージして聴くだけも面白いです。

 

 

カルト的な人気を誇るニュージーランド発のThe Garbage & The Flowersが満を持してリリースしたインディーズ・ギターバンドとしての新作!

ニュージーランドウェリントン出身のYuri Frusin、Helen Johnstoneの2人により80年代後半に結成されたThe Garbage & the Flowers。サポート・メンバーを加えて活動を行い、1992年のデビュー・シングルから5年も経った97年に1stアルバム “Eyes Rind As If Beggars” をリリース。その後、2000年代中頃までは音沙汰がなく、2007年にThe Garbage & the Flowersの派生バンドEntlangとのスプリット・カセット音源で音楽シーンに復帰。2008年にニュージーランドでのライブ・アルバム “Stoned Rehearsal” をリリースしている。“Eyes Rind As If Beggars” がVelvet Undergroundを想起させるサイケデリックなアート感で、一部リスナーからはカルト的な存在になっていた。因みに、The Garbage & the Flowersのバンド名は、Leonard Cohenの “Suzanne”  の一節から取ったようです。

 

その後、2人は拠点をオーストラリア、シドニーに移した。2013年に “Eyes Rind As If Beggars” をイギリスのFire Recordsがリイシューしたことで、一気に知名度が上がったのです。私もこの時にThe Garbage & the Flowersの存在を知ったのでした。2016年には 97年の “Eyes Rind As If Beggars” 以前に録音した未発表音源集 “The Deep Niche” をリリース。結成から30年以上経っている中で、アルバム3枚、シングルEP盤8枚ほどリリースしているが、オーストラリアに移ってからの新録としての新作はリリースされていない。それでもメンバーを集めてライブ活動は行っていた。そんな状況の中、満を持して新作がリリースされました。

 

The Garbage & the Flowers / Cinnamon Sea

Fire Recordsよりレコードとしてリリースされた本作は、オーストラリアのビクトリア州ゴールドフィールドの小さな村の廃墟となった裁判所で2019年に録音されています。全5曲収録でミニ・アルバム的な感じです。Yuri Frusin(ギター、ヴォーカル)とHelen Johnstone(ギター、ヴォーカル)の2人に加えてBen Wright Smith(ギター)、 Dan Lewis(ギター)、Stuart Olsen(ベース)、Paul Williams(ドラムス)の6人編成となっています。

 

プロデュースはメンバーであるBen Wright Smithが担当。これまでの“The Deep Niche”のようなアシッド・フォーキーな感じでもなく、Helen Johnstoneのヴィオラを用いて多彩な雰囲気を醸し出していた “Eyes Rind As If Beggars” とも違っている。Helen JohnstoneとYuri Frusinのヴォーカルを中心に何本ものギターがシンプルで有りながらもバランスよく鳴り響いて、インディーズ・ギターバンドといった様相を示している。

 

Helen Johnstoneが歌う “Eye Know Who You Are”、“Cinnamon Sea”、“On the Radio” の3曲は、何れも彼女の飾らない歌声がノスタルジックで恍惚を感じる。心の中にすっと染みこんでエンドレスに聴き込んでしまう。ふとLeonard Cohenの “Suzanne” の影響なのかとも思ってしまった。一方でYuri Frusinが歌う “Red Star” に絡むHelen Johnstoneの歌声は、茶目っ気に溢れ30年以上に渡る2人の関係性を物語っているように思う。ラスト曲 “Jacob B” はHelen Johnstoneの弾き語りで締めくくっている。

 

たった5曲ですが、どの曲も素晴らしいです。他にもアウトテイクが有りそうな気がしますが、Yuri Frusin、Helen Johnstoneの2人の時間軸はゆっくりでマイペースですからね。他のメンバーも個々に様々な活動を行っているため、“Cinnamon Sea” がリリースされたことで一段落といった感じでしょうか?

 

2019年のライブ映像があります。この時点で “Eye Know Who You Are” はすでに演奏されていたようです。レコーディング時の画像と併せてアップしておきます。

 

 

The Garbage & the Flowersについて、過去にも書いています。


 

80年代に活躍した フランスのエスノ・インダストリアルバンド Vox Populi!のアーカイブ音源集!

写真の説明はありません。

80年代に活躍した フランスのエスノ・インダストリアルバンド Vox Populi!は、1981年にパリ在住のAxel Kyrouによって結成。その後、彼のパートナーとなるイラン・テヘランからの移住者である女性シンガーMitraとその弟Arash Khalatbariらが参加します。カセット音源を中心に90年代前半まで活動します。アンダーグラウンド・シーンで「陰のヒーロー」と言われていたカルト的な存在でもありました。2000年代後半より様々な音源がリリースされることで、やっとVox Populi!の全貌が把握出来るようになりました。今回、全盛期の1986年から1990年までのアーカイブ音源集がヴァイナル・リリースされました。

 

Vox Populi! / Psyko Tropix

イギリスのレーベルTouch Sensitiveよりリリースされた “Psyko Tropix” は、クラウトロック、インダストリアル、サイケデリック、フォーク、サウンドコラージュなど様々なサウンドを取り入れて中東、東洋と言った雰囲気を醸し出している。そこに彼ら独特のポップなフィーリングが加味された素晴らしい1枚となっています。

 

本作のプロデューサーでライナーノーツも書いているMark Reidは、Axel KyrouとMitraと色々と話し合いを積み重ねながら全11曲を収録しています。その中で2人が2017年に新たなるメンバーとセッションを行った秘蔵音源(Mush Dubby Gnarls & Vrooms、Psycho Tropics、Ethno Space Trek)3曲も収録されています。30年近く録音時期が空いているにも拘わらす一貫性を持って聴くことが出来るのは、マスタリングを行ったRupert Clervauxの技なのでしょう。こうした裏方さんのVox Populi! に対する思いも伝わって来ます。何よりも2人が密かに音楽活動を行っていたことにも興味芯々です。今後、新作なども期待出来ますね。

同じインダストリアルバンドでもイギリスのThrobbing Gristleに代表されるノイズ系列と一線を画すところは面白いです。エスノ・インダストリアルバンドとカテゴライズされることに違和感を持っているAxel Kyrouは、「我々はすべてのアイデアを録音した。常にカセットやリールを回していた。フリーキー、オルタナ、エクスペリメンタル、インダストリアルなど、様々なスタイルのものを作った。私たちにはルールも計画もなく、遊びと楽しみが主な動機でした。多くの人がそれを音楽で感じられると思う。」とも語っています。

 

ジャケットは80年代後半の写真で左よりArash Khalatbari、Axel Kyrou、Mitra、Pacific 231Pierre Jolivet)、FR6 Man(Francis Manne)と映っています。Pacific 231はソロ活動も行っており、Vox Populi!のサポートメンバーでありコラボレーターでもありました。現在はフランスからアイルランド・ダブリンを拠点としてインダストリアルからエクスペリメンタル・ミュージックを中心に今も多彩な活動を行っています。

 

 

2022年5月のディスカホリック

5月13日にオーディオメーカーオンキヨー” が自己破産しました。昨年上場廃止になった時にこうなると思っていた。応援の意味も込めて株価20円の頃、一発逆転に賭けて株を買った。結局15円で何とか売り逃げ出来ました(笑) オーディオマニアじゃないけど、2000年初めに購入したオンキヨー製ミニコンポのアンプとスピーカーは今も現役で使っている。CDとチューナーがセットで、カセットとMDが選択になっていた。当時はMDを選択したけど、生き延びたのはカセットでしたね。2019年にオンキヨーの中古カセットデッキを購入したことで、カセットに目覚めてしまった私です。フィジカルに拘るのは一部の音楽マニアだけだと思うが、今更デジタルに方向転換出来ないのですよ。オーディオメーカーが無くなるのは、やはり寂しい!

オンキヨーカセットデッキを購入したことを記事として書いています。


 

2022年5月のディスカホリックは、レコード7、カセット5、CD5の17作品の購入でした。先月に引き続き少し買いすぎです。いつもの様に殆ど聴けていませんが。

 

レーベルC/Site Recordingsのオーナーで、Headroom、Centerのメンバーでもあるアメリカ・コネチカットのギタリストStefan Christensenの最新7インチによる2作品。

Stefan Christensen / Ruby(7“Vinyl×2) 購入先Knotwilg Records 購入価格€35.50 EUR(5,102円)

NYのレーベルEver/Neverよりリリースされた7インチ2枚組。

 

Stefan Christensen / Arbor(7"Vinyl) 購入先Stoned To Death Bandcamp 購入価格€13.50 EUR(1,940円)

リリース元であるチェコのレーベルStoned To Deathより購入。以前に購入したことがあったので、他のバンドのDLコードやレーベルスッテッカーなども入れてくれました。有難いです。

 

Center / Two Shapes(Cassette) 購入先Carbon Records Bandcamp 購入価格$18.00 USD(2,447円)

Stefan Christensen、David Shapiro、Ian McColmによるギターをメインとしたアンビエント・ドローンユニットCenterの2020年作品。

 

 

ロンドンのレーベルJolly Discsよりリリースの2作品。

Enchante / Mind In Camden 3(Cassette) 購入先Jolly Discs Bandcamp 購入価格£11.75 GBP (2,021円)

Jolly DiscsのオーナーでもあるGuy GormleyのソロユニットEnchanteの新作。

 

RAP / Junction(CD) 購入先Jolly Discs Bandcamp 購入価格£11.75 GBP (2,021円)

Guy GormleyとThomas BushによるユニットRAPの2021年作品。

 

 

Magic Tuber Stringband / When Sorrows Encompass Me 'Round(Cassette) 購入先Discogs(Juno Records) 購入価格£14.49 GBP(2,493円)

今月Magic Tuber Stringbandについて、記事にしました。書いたあとに、2021年にFeeding Tube Recordsよりリリースされた作品も購入しました。

 

 

Treasury Of Puppies / Mitt Stora Nu(Vinyl) 購入先Art Into Life 購入価格3,812円

スウェーデンの男女デュオTreasury of Puppiesのセカンド・アルバムとなる新作。ベッドルームポップからアンビエントの世界。

 

 

Balint Brosel / Live In Utrecht(Vinyl) 購入先Art Into Life 購入価格4,023円

ドイツの3人組エクスペリメンタル・フォークバンドBrannten Schnureの2018年リリースのファースト・アルバム。オランダのユトレヒトでのライブ音源。このアルバムのみのリリースで、あとは殆ど情報が有りません。この曲が心に引っかかり購入しました。

 

 

アルゼンチンの実験的カルトバンドReynolsのCarbon Recordsリリースの2作品。 

Reynols / Tolin Asumer(Vinyl) 購入先Carbon Records Bandcamp 購入価格$33.00 USD(4,487円)

最新作です。2020年にReynols復活してから様々な活動を行っています。

 

Reynols / Live in Chicago(CD) 購入先Carbon Records Bandcamp 購入価格$17.00 USD(2,311円)

2001年にリリースされたシカゴでのライブ音源。

 

 

1984年結成より活動しているフランスのアヴァンギャルド・バンドLa STOP(La Société des Timides à la Parade des Oiseaux)の2作品。                   

La STPO / Romanciel(CD) 購入先La STPO Bandcamp 購入価格€17.50EUR(2,507円)

4年振りとなる新作。

 

La STPO / Le Combat Occulté(CD) 購入先La STPO Bandcamp 購入価格€16.50EUR(2,364円)

2005年にBeta-lactam Ring Recordsからリリースされていた80年代、90年代の音源を集めたコンピレーション盤。

 

 

Vox Populi! / Psyko Tropix(Vinyl) 購入先Diskunion.net 購入価格3,630円

フランスのエスノ・インダストリアル・バンド VOX POPULI!。今年リリースされた1986年から1990年までのアーカイヴ音源8曲と2017年に再編成した時の音源3曲が収録されています。

 

 

Loop / Sonancy(CD) 購入先Diskunion.net 購入価格2,090円

Robert Hampson率いるイギリスのサイケデリックバンドLoopの30年振りとなる新作。

 

 

Sam Gendel & Antonia Cytrynowicz / Live A Little(Cassette) 購入先WOW HD 購入価格2,310円

LAの大人気サックス奏者Sam Gendel。何と録音当時11歳の少女Antonia Cytrynowiczとの完全即興で創り上げた作品。

 

 

Landing / Monthly Subscription Series Collection 01(Cassette) 購入先K Mail Order Department 購入価格$21.06 USD(2,869円)

サブスク限定アイテムでLanding Bandcampより通常購入すると送料25,000円以上掛かります。殆ど諦めていたら、何とあのKレーベルで扱っていたので購入しました。

 

 

The Garbage & the Flowers / Cinnamon Sea(Vinyl) 購入先Juno Records 購入価格£20.65 GBP(3,473円)

ニュージーランドのインディーズバンドThe Garbage & the Flowers。久しぶりの新作です。


 

ウクライナ、ロシア、エストニアとソ連の3カ国を渡り歩いてきたヴァイオリン奏者Valentina Goncharovaのアヴァンギャルドなアーカイブ音源!

Valentina Goncharova 写真 (1 / 5 ) | Last.fm

ウクライナキエフ(キーウ)出身の音楽家Valentina Goncharova。16歳からレニングラード(現サンクトペテルブルク)で、ソ連クラシック音楽研究に没頭しヴァイオリンを学ぶ。1984年にエストニアに移り、この頃よりクラシックのみならず、フリージャズ、電子音楽、実験的なロックに興味を持つようになっていた。これまで彼女の音源は1989年に8枚組CD BOX “Document - New Music From Russia - The 80's” の1枚として “Ocean” がリリースされていただけでした。

 

2020年にソ連アーカイブ音源をリリースしているウクライナのレーベルShukaiよりValentina Goncharovaの1987年から91年に残されたその貴重音源を ”Recordings 1987-1991 Vol. 1(2LP)” として、2021年に ”Recordings 1987-1991 Vol. 2(LP)” としてリリース。レコードはすぐに完売となったが、今年になってカセットとしてリイシューされた。両方ともカセットで購入することが出来たので紹介します。

 

Valentina Goncharova / Recordings 1987-1991, Vol. 1

ヴァイオリン、チェロなどの室内楽器にシンセサイザーやフェクターの電子音を融合させて、自宅で改造したオープンテープレコーダーを使用して録音されてた音源10曲を収録。Stockhausen、Xenakis、Ganelin Trio、そしてPierre Boulezに影響を受けて、電子音楽、現代音楽、フリージャズ、クラシックまでと音楽性を発展させたValentina Goncharova。それらの様々な要素を、ソ連アヴァンギャルドな世界との合体によって生まれた怪しいアルバムです。

 

Valentina Goncharova / Recordings 1987-1991, Vol. 2

第2弾は3人のアーティストとのコラボ・ジャムセッション集です。1曲目がラトビアのマルチインストゥルメンタリストで劇場監督でもあるAlexander Aksenov、2曲目から4曲目までがロシアのサックス奏者Sergei Letov、そして後半3曲がなんとフィランドの実験音楽家Pekka Airaksinenとのコラボレーション。劇場、ジャズカフェ、アートギャラリーを使用して、ゲリラ的に即興で行われたのでしょうか?ソ連崩壊が近づく中でのジャムセッションだけに凄さを感じるアルバムです。

 

Valentina Goncharovaは今もエストニアに住んでおり、この数十年間は首都タリンの音楽大学で講師を行っています。ポスト・ソ連のポピュラー音楽について研究しつつ、エストニアやロシア・フィルハーモニー協会と協力してコンサートやチャリティーイベントなども開催していたようです。ウクライナ、ロシア、エストニアソ連の3カ国を渡り歩いてきた彼女は、今も昔も音楽でつながりを表そうとしていたのでしょうね。早く平和になって欲しいです。

 

 

P.E.のセカンド・アルバム! バブルガムポップやニューウェーブ、ノーウェーブといった雰囲気を醸し出しながらダンサブルで新感覚のポップさを体感!

解散したポストパンクPillの3人Benjamin Jaffe、Jonathan Campolo、Veronica Torresとロック、ジャズ、ノイスなど様々な音楽を実践しているコラボレーション・ユニットEaters のBob Jones、Jonathan Schenkeが合体して結成されたNYブルックリンのP.E. 。彼らの2年振りとなるセカンド・アルバム “The Leather Lemon” がWharf Cat Recordsよりリリースされました。

 

P.E. / The Leather Lemon

2020年のデビューアルバム “Person” の流れを踏襲しつつ、さらに60年代後半のバブルガムポップや80年代のニューウェーブ、ノーウェーブといった雰囲気を醸し出しながらダンサブルで新感覚のポップさを体感出来ます。Jonathan Schenke、Bob Jones、Jonny Campoloの3人が、シンセ、ベース、パーカッション、ピアノを駆使してサウンドのグルーブ感を構築して、Veronica Torresの官能的なヴォーカルとBenjamin Jaffeの変幻自在なサックスがぶつかり合う展開。Veronica TorresとBenjamin Jaffeの真っ向勝負も “The Leather Lemon” の聴きどころです。

 

プロデュース、ミックス、マスタリングは、前作同様にJonathan Schenkeが行っています。前身バンドPillからP.E.をここまで進化させたのは、彼のおかげだと思う。プロデューサー、エンジニアとして様々なアルバム制作に裏方として関わっており、要注目の存在でもあります。

 

もう1人注目しなければ成らないのがヴォーカルのVeronica Torresです。これまではスポークンワード的に淡々と歌うことが多かった。でも本作ではしっとりとロマンティックにも歌い上げています。その代表曲的な曲ががParquet CourtsのAndrew SavageとのデュエットTears in The Rain (feat. A. Savage)です。Jonathan SchenkeがParquet Courtsのアルバム制作にエンジニアとして関わっていたことが切っ掛けで、このデュエットが企画されました。ヴォーカリストVeronica Torresとしての魅力がアップされたことは確かですね。

 

本作は歌詞の世界もユニークです。“Blue Nude (Reclined)” はHenri Matisseの切り絵を、“Lying with the Wolf” はKiki Smithの紙画を、それぞれモチーフにしてVeronica Torres が歌詞を書いています。オリジナルアートと歌詞もアップしておきます。

Blue Nude / Henri Matisse

Amazon.co.jp : Blue Nude I by Henri Matisse 12 X 9.5 Art Print Poster by  EGIM : ホーム&キッチン

チクチクする肌、温かい唾液

残忍な恋人

 

青いヌードが横たわる

絵画のような、陶磁器のような

そして彼女は回転する

 

平和を守るためのフレンチキス

平和を守るためのフレンチファック!

平和を守るためのフレンチキス

 

あなたは私を懇願させたいのですね

私を手なずけたいのね

 

Lying with the Wolf / Kiki Smith

Kiki Smith, Lying with the Wolf (article) | Khan Academy

私は時間に取り憑かれている

失ったもの、無駄にしたもの

手放してしまったもの

めまいがするほどだ

 

窓の外を眺めながら

私たちが恋に落ちた庭の日陰を

二人の肌を照らす光は

夏の体の甘い匂いを吸い込みながら

鳥の声 もう忘れてしまった

いい日だと言い直されないように

素敵な日、素敵な時間、素敵な笑顔の人と

もうピルエットをすることもない

 

狼が捕まった!  狼が捕まった!

 

メンバー5人の英知が結集して作り上げられた ”The Leather Lemon“。男性にとってはちょっとハッとさせられる部分もありますが、聴き込んでいくとテンションが上がって来ますね。ライブが観たいバンドです。

 

 

P.E.のデビュー・アルバムについても書いています。


 

 

フォーク、アンビエント、ドローンをアパラチアン音楽の雰囲気で纏め上げた男女デュオMagic Tuber Stringband

フォークやアンビエントを中心としたアメリカのカセットレーベルGarden Portal。毎回限定150本のカセットを、アメリカ、カナダを中心に販売していた。日本からの直接注文はカセット1本で送料で20,000円以上取るので、フィジカルに拘ると厳しい状況であった。昨年10月リリースの5作品がやっと日本で扱うところが出てきて、何とか購入することが出来た。この事を前回の記事 “4月のディスカホリック” で書いている。本日はその中からMagic Tuber Stringbandを紹介します。


Magic Tuber Stringband / Wind Machines

Courtney WernerとEvan Morganの2人によるMagic Tuber Stringbandは、ノースカロライナ州ダーラム を拠点に活動を行っています。これまでに3本のカセットアルバムをリリースしており、“Wind Machines” が3作目であります。Courtney Wernerのフィドル、Evan Morganのギターを中心にハーモニウムビオラなど駆使してフォーク、アンビエント、ドローンをアパラチアン音楽の雰囲気で纏め上げた全6曲を収録。このアパラチアン音楽というのは、アパラチア山脈周辺地域の東アメリカで生まれた伝統音楽でカントリーやブルーグラスの元になった音楽とされています。Magic Tuber Stringbandの根底に流れるアパラチアン音楽に現代の要素を巧く組み合わせたといっても良いのでしょうね。全編通して非常に心地良く鳴り響かせています。

 

 

興味深いのは2曲のヴォーカル曲が、いずれもカヴァー曲であります。3曲目 “Angel of Death” が、若くして亡くなった伝説のカントリーシンガーHank Williamsの50年代の曲です。そして5曲目 “Noble Experiment” が90年代のローファイ・カルトバンドThinking Fellers Union Local 282の傑作アルバム “Strangers From The Universe” からの曲であります。この異なる2曲をカヴァー曲として収録するMagic Tuber Stringbandの感性に驚いてしまった。歌詞とオリジナル曲をアップしますので、聴き比べてくだい。

 

Hank Williams-Angel of Death

死の天使があなたのうしろに降りてくる

あなたは笑いながら言えますか?

自分は間違っちゃいなかったと

正直に言えますか?

死にかけの息をして

死の天使に会う準備をしながら

 

Thinking Fellers Union Local 282-Noble Experiment

人間であることをやめる時が来たのだ

新しい生き物を見つける時だ

魚や雑草やスズメになりなさい

地球は疲れ果て、あなた方の時間はすべて失われたのです

この2曲の歌詞からHank WilliamsとThinking Fellers Union Local 282の不思議な共通点を見出すことが出来ますね。今の時代を表している様にも思う。

 

Hank Williamsについては、何も情報を持っていませんが、Thinking Fellers Union Local 282は好きなバンドだけに嬉しいです。Noble Experimentはアルバム “Strangers From The Universe” のラスト曲で、カオスティックにガチャガチャと掻き鳴らす曲が多い中で、最後にしっとりとバラードで締めくくっています。Magic Tuber Stringbandのお陰で、Thinking Fellers Union Local 282について、歌詞も含めて再確認することが出来ました。

 

もう一つ興味深いのは、本作のライナーにMark Fossonの人生、記憶、そして精神に捧げると書いています。Mark Fosson(1950-2018)は70年代後半にアコースティックギターのカリスマJohn Faheyに送ったデモ音源が気に入られ、アルバムデビューが約束されます。しかし、寸前でリリース元が買収されたことで、幻と散ったケンタッキー出身の不運の無名天才ギタリストです。2000年代中頃より当時の音源がやっとリリース。2017年には新作もリリースされています。Magic Tuber StringbandのギタリストEvan MorganがMark Fossonのギター奏法に影響を受けているのは確かですね。

 

最後にMagic Tuber Stringbandのインスタグラムで今年3月のライブの様子がアップされていました。今後も注目していきたいバンドです。

 
 
 
 
 
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