1996年の結成時より、シカゴのアヴァン、ポストロックをリードしてきたJoan of Arc。彼らのファイナル・アルバムが昨年12月にリリースされました。中心メンバーのTim Kinsellaは9月の段階で2017年よりこのアルバムを作り始めていたことをメッセージとして公表していた。その中で解散ではなく廃業したと言っている。これまでの自分達の築き上げてきたコミュニティや文化は絶滅して、それを維持していくことが不可能になったと語っています。
Joan of Arcがデビューした頃とは、音楽マーケットや音楽の聴き方が大きく変化しており、それに対するTim Kinsellaのけじめのつけかたなのでしょう。様々なプロジェクトなども行って来た彼にすれば、生真面目な対応とも思ったが、それだけJoan of Arcが重要だったことを再確認する。
Joan of Arcがファイナル・アルバムで何を伝えるかにも興味を持ってしまった。本国のリリース元Joyful Noise Recordingsはレコードとカセットのみのリリースだったので、今回は歌詞・対訳付の国内盤限定のCDを購入しました。
Joan Of Arc / Tim Melina Theo Bobby
Joan of Arcといえば、Tim Kinsellaのユニット的な感覚で様々なメンバーが関わりながら活動してたが、本作は現在のラインナップであるTim Kinsella、Melina Ausikaitis、Theo Katsaounis、Bobby Burgの名を冠したタイトルでちょっとウルッとしてしまった。2008年来日の時に仙台のBIRDLANDで彼らを観ている。Theo Katsaounis、Bobby Burgのリズム隊2人は参加していたが、女性ヴォーカルのMelina Ausikaitisはまだ先のことである。このメンバーでのライブは2014年、2016年と日本で行われたが、見損なったことを本作を聴いて今更ながら後悔してしまった。
全10曲で、Tim Kinsellaのヴォーカル5曲、Melina Ausikaitisのヴォーカル3曲、そしてインスト2曲の構成になっています。歌詞の世界も興味深い。1曲目「Destiny Revision」では"Let go、Let go、Revising My Destiny"と歌っており、8曲目「Cover Letter Song」では" I got derams and I got goals:I’m gonna be the next Tim Kinsella"と自らの名前までも持ち出してポジティブに歌い上げている。ただ、ラスト曲「Upside Down Bottomless Pit」では "It’s all an upside down bottomless pit and there’s no way to know above from below. There’s no bleachers. no sidelines. no out of bounds"と締めくくっている。ここにTim Kinsellaの苦悩と葛藤を伺うことが出来る。Melina Ausikaitisも2曲目「Something Kind」でIn the dawn of Something Kind. I’m the one taking you from behind you get the tits and periods and you’re the one who get pregnantと歌っている。えっ、彼女、妊娠してしまったのか? と言った感じでプライベートも含めて自分達の心境をさらけ出しています。
この4人の他、Nate Kinsella (American Football)、Jeremy Boyle、Todd Matteiといった旧メンバー、そしてTim Kinsellaとのコラボレーション・ユニットGood FuckのJenny Pulseが参加しています。関わったメンバー全員の英知を結集させてJoan of Arcの轟音ギターが鳴り響く曲からエレクトロニクスな曲まで様々な要素を凝縮した10曲です。四半世紀に渡って活動してきた彼らの集大成と呼ぶに相応しい傑作!これで廃業なんて寂しさも感じる。
I got derams and I got goals:I’m gonna be the next Tim Kinsella(俺には夢があり、目標があったから:俺は次のティム・キンセラになりたい)早く戻って来て欲しい!