ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

Tony Conrad、Arnold Dreyblatt、Jim O'Rourkeによるアーカイブ音源 “Tonic 19-01-2001” は、前衛音楽ファン必聴の1枚!

Oren Ambarchi主宰の前衛音楽を中心としたレーベルBlack Truffleの100タイトル記念としてTony Conrad、Arnold Dreyblatt、Jim O'Rourkeの3人による2001年のアーカイブ音源 “Tonic 19-01-2001” がリリースされました。 本日は、このアルバムを取り上げます。その前にコラボレーションした3人についても少し書いて置きたいと思う。

 

Tony Conradはアメリカのヴァイオリン奏者で前衛音楽家です。60年代にLa Monte Youngがニューヨークで結成したグループTheatre of Eternal Music(永久音楽劇場)に、John Cale、Angus MacLiseと共に参加しており、ドローン音楽の先駆けとなる演奏を行っていた。ただ、当時の音源はリアルタイムにリリースされることは無かった。Tony Conradの名前を世に知らしめたのは、1973年のクラウトロックバンドFaustとのコラボレーション・アルバム “Outside The Dream Syndicate” でした。その後は大学で映画や音楽について教鞭を執っていたようです。そんな彼を再び音楽の現場へと導いたのがJim O'Rourkeであった。1995年にJim O'Rourkeのプロデュースで新作Slapping Pythagorasをリリース。これを切っ掛けに60年代の伝説とされていた音源が次々と日の目を浴びるようになる。2016年に前立腺癌との闘病生活を続けた末、76歳で亡くなってしまう。亡くなる直前まで精力的に活動を行っており、Pitchforkが生前のTony Conradにインタビューした中で「私にはまだ陽の光を見せられていない音楽がたくさんある」と語っていたようです。

 

一方、Arnold Dreyblattはアメリカのミニマル音楽家で、Pauline Oliveros、 La Monte Young、 Alvin Lucierから音楽を学んだあと、1984年よりベルリンを拠点に活動しています。コントラバス奏者でもあり、独自のアプローチで弦楽器を中心としたThe Orchestra Of Excited Stringsを率いて演奏活動も行っている。2013年にはサイケ・フォークバンドMegafaunとのコラボレーションを行うなど、幅広く音楽を捉えている。近年はドイツの芸術デザイン学校でビジュアル・アートの教授も務めています。

 

そして、言わずと知れたJim O'Rourkは、90年代のポストロックバンドGastr Del Solを始めとして、Sonic Youthのメンバーとしても活動していた。現在は日本を拠点にしてジャンルに関係なく様々なミュージシャンとコラボレーションを行いながら、音楽と向き合ってきたマルチアーティストです。

 

Tony Conrad、Arnold Dreyblatt、Jim O'Rourke / Tonic 19-01-2001

本作は2001年1月19日にニューヨークの伝説的ライブハウスTonicで行われた3人によるコラボレーション・ライブ音源です。レーベルBlack Truffleとしての初Tony Conradのアルバムとなります。マスタリングをJim O'Rourkeが行い、ライナーノーツをArnold Dreyblattが書いています。このライナーノーツが非常に面白い。Tony Conradと70年代に同じ大学で顔見知りだったArnold Dreyblattは、音楽に対するアドバイスを受けようしていた。La Monte Youngの門下生であったArnold Dreyblattに、60年代のTheatre of Eternal Musicの音源をリリースないことに強い不満を漏らしていたエピソードなども書かれている。コラボレーションが決まった時に、これは世代を超えたコラボレーションであり、Tony Conradの先駆者的なドローン・ミニマリズムをしっかりと伝えなければと思ったようです。

 

Tony Conradのヴァイオリンを中心に、Arnold Dreyblattのコントラバス、Jim O'Rourkeのハーディ・ガーディが一体となって攻め込んでくる世界。3人のコラボレーションでありながら完璧にTony Conradの世界へとなっています。“作曲から聴くことへの移行” そして、“音の内側から音に働きかける” といったTony Conradの音楽的思想をArnold DreyblattとJim O'Rourkeの2人が理解して作り上げています。これまでもヴァイオリンを駆使した作品は色々とありますが、より多彩な雰囲気を醸し出しているように思う。前衛音楽ファン必聴の1枚となる素晴らしいアルバムです。