ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

Kreidlerの新作は、クラウトロックの雰囲気を活かしつつ、よりポップへと進化した傑作!

ドイツのデュッセルドルフを拠点とするKreidlerは、1993年にAndreas Reihse、Detlef Weinrich、Stefan Schneider、Thomas Kleinの4人で結成されます。Andreas ReihseとThomas Kleinの2人はKlaus DingerのLa! Neu? のメンバーとして1996年に来日したこともありました。そんなことでクラウトロックの先人が築き上げてきた世界を90年代に受け継ぐバンドとして注目を浴びました。

 

90年代後半には、KreidlerとTo Rococo Rotの両方のメンバーだったStefan SchneiderがTo Rococo Rotに専念したいということでKreidlerを離れます。3人編成に成りながらも当時のポストロックや音響テクノの要素を巧く取り入れてサウンド構築していきます。2010年にAlex Paulickが正式メンバーとして加わり、これまで培ってきたことが一気に開花した傑作 ”Tank” をリリース。再び、Alex Paulick、Andreas Reihse、Detlef Weinrich、Thomas Kleinの4人編成となって、その後もゲスト・ヴォーカルを加えたアルバムや政治的メッセージを掲げたアルバムなど様々な試みを行ってきたバンドです。本日は彼らの2年振りとなる新作 “Spells and Daubs” を紹介します。

 

Kreidler / Spells and Daubs

本作にはバンド結成時からKreidlerサウンドを支えてきたDetlef Weinrichが参加していません。特に脱退したといった情報は無いのですが、2020年にパリに移住したようです。昨年フランスのシンガーでハーディ・ガーディ奏者であるレジェンドEmmanuelle Parreninとコラボ・アルバムをリリースしています。また一緒にKreidlerとして活動して欲しいですが・・・

 

2020年9月より “Spells and Daubs” の制作が始まっています。Alex Paulick(ベース)、Andreas Reihse(エレクトロニクス)、Thomas Klein(ドラム)の3人は、コロナ渦の影響もあって当初はリモートにて曲の構想を作り上げたとのこと。実際にスタジオに入ったのは2021年春になってからのようです。これまでのエレクトロニクスを中心としたサウンドよりもAlex PaulickのベースとThomas Kleinのドラムが繰り出す多彩なリズムセッションを軸に曲全体が作られています。そこにAndreas Reihseのエレクトロニクスがレイヤーのごとくポップに絡んできます。

 

プロデュース、ミックス、サウンドデザインはイギリス人のPeter Walshが行っています。彼はPeter Gabriel、Scott Walker、Pulp、FKA twigsなどのアルバムにも関わってきた人でもあります。すべてインスト曲にして収録候補を15曲から10曲に絞り込み、どの曲も3分から4分台とこれまでのKreidlerに無かったコンパクトな仕上がりになっています。英国ポップ職人Peter Walshの力量がしっかりと反映されています。クラウトロックの雰囲気を活かしつつ、よりポップへと進化した傑作です。

 

 

 

 

Reynols Japan 2022

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「レイノルズ」 の展覧会&ドキュメンタリー映画の上映ツアー!2022年4月5日 東京DOMMUNEより開幕!アルゼンチンのアバンギャルド/ノイズ/サイケデリックバンド「レイノルズ」の神髄ここに!

*dommune.comより

最近になって、このライブフライヤーをReynolsのFacebookで見つけた時は、日本でライブをやるのかと思ってしまった。今回はReynols関連の写真、アート作品の展示会と日本のAcid Mothers Templeとのコラボレーション「Acid Mothers Reynols」に関するドキュメンタリー映画などを上映します。

 

このReynolsの展覧会&ドキュメンタリー映画の上映ツアーは、全国各地で行われますが、私の住んでいる北海道は無いのですよ。もの凄く残念です。だた、その中で4月5日のDommuneでのイベントは、YouTubeで19:00ー21:30に ライブ配信されます。通常の展示会と映画の上映の他に、ゲストとしてReynolsのAnla Courtis、Acid Mothers Templeの田畑満が参加します。これは必見ですね!Anla Courtisは何回か来日したことがあります。彼と飲んだことのある友人によると、寡黙で温和しい人だったと聞いたことがあります。このイベントで少しでもReynolsを知って頂けたなら有難いですね。

Reynolsについて、当ブログではこれまでに2回取り上げています。重複する部分もありますが、再度、バイオグラフィー的なことを書いておきます。Anla Courtis、Miguel Tomasin、Roberto Conlazoによるアルゼンチンの実験的カルトバンドReynols。このバンドのヴォーカルでドラマーのMiguel Tomasinは、ダウン症を患いながら音楽活動を行っています。そんな彼の奇想天外なアイデアを元に1993年に結成されました。サイケ、ノイズ、ローファイ、ドローン、電子音楽サウンドアートまで、すべての要素をごちゃ混ぜにした音楽性を披露してくれました。

 

残念ながら2004年に活動中止になります。Reynolsサウンドを支えていたギタリストAnla Courtisの海外での活動が中心になったことや、Miguel Tomasinのダウン症を考えての結果だそうです。音源リリースが本国よりも日本も含めて世界各国のレーベルからなので、Anla Courtisが海外へ出たことで、より幅広くReynolsの存在を知られることになったのも確かです。

 

2010年代後半よりMiguel Tomasinの体調を考慮しながら活動再開へ進んでいました。その切っ掛けとなったのが2019年リリースのBoxセット「Minecxio Emanations 1993-2018(6CD&1DVD Box)」であり、日本のAcid Mothers Templeとのコラボレーションであります。2020年11月に17年振りとなるスタジオ録音作品となる「Gona Rubian Ranesa」もリリースされています。

 


 

フジロック出演者第1弾発表!

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フジロック出演者第1弾発表になりました。今日は諦めていましたが、まさか夕方になるとはね。Dinosaur Jr.、Altın Gün、Fontaines D.C、あたりが楽しみです。ただ、海外勢が個人的に地味な感じがするけど。まあ、これからですよ。早割は落選したので、これからチケットを購入します。宿の方はもう抑えていますから。



2022年3月のディスカホリック

2月のディスカホリックの時に、ウクライナを拠点に活動しているシンガー・ソング・ライターSvitlana Nianioのレコードを首都キーウのレコード店GRAM Record Storeで購入していたことに触れた。そのレコード店Facebookでの最新投稿によると店舗は大丈夫のようですね。その中で、戦争中にレコードを売る。今はその時じゃないけど、働ける時に働かなければいけないって。 私たちの場合は、むしろ小さなチャンスです。なぜなら、次に何が起こるかわからないからです。だから古き良き時代のように、いくつかのレコードを追加し、特定のアイテムの価格を下げました。もちろん、私たちが受け取ったお金の一部はチャリティーに送ると書かれています。早く通常営業出来るようになって欲しいです。

 

 

2022年3月のディスカホリック(購入履歴)は、カセット3本、レコード1枚、CD1枚の5タイトルでした。いつもよりは少ないです。送料を抑える為にまとめ買いをしたのですが、3月発売予定の新作レコードの生産が遅れているため、まだ送って貰えていないのが有ります。レコードの生産が世界的に追いついていないようです。           

Sunwatchers / Hauslive 1: Sunwatchers 4/13/2019 At Cafe Mustachea(Cassette) 購入先Amazon.co.jp(M plus L) 購入価格2,295円

買いそびれていたSunwatchersの2019年ライブ音源。

昨年Sunwatchersについて書いています。


 

Jeff Tobias / Recurring Dream(Vinyl) 購入先Jeff Tobias Bandcamp 購入価格$35.00 USD(4,220円)

Sunwatchersのメンバーでもあり、Modern Natureのメンバーとしても積極的に活動を行っているJeff Tobiasのソロ・アルバム。

先月Modern Natureについても書いています。


 

Matt Jencik / Matt & Lyra(Cassette) 購入先Trouble In Mind Records Bandcamp 購入価格$25.00USD(3,009円)

一時期Don CaballeroのメンバーでもあったMatt Jencik。様々なバンドを経て2017年より本人名義でドローン、アンビエントを中心に音楽活動を行っています。昨年リリースされた3作目。

 

 

Stefan Christensen / Atlas Rand(Cassette) 購入先Penultimate Press 購入価格£16.00 GBP(2,571円)

Stefan Christensenの新作カセット。紙ケースに紐を括り付けたパッケージが素晴らしいです。これまでとはまた違った彼のギターワークが堪能出来ます。

昨年Stefan Christensenについて書いています。

 

 

Kreidler / Spells & Daubs(CD) 購入先Amazon.co.jp(RarewavesーJp) 購入価格2,207円

ドイツ・デュッセルドルフクラウトロックバンドKreidlerの新作。

 

 

 

MV & EEの2009年から2021年のライブ音源6枚セット!

2000年代初期からフォークからサイケデリック・ロックまで奏でるアメリカ・バーモント州の夫婦Matt ValentineとErika ElderによるMV & EE。彼らのライブ音源6枚セットが昨年末にリリースされました。今回も自身のレーベルChild Of Microtonesからのセルフリリースです。自分達のやりたいように、制約を受けずに、真の意味でのインディーズ道を追求しています。

 

MV & EEの場合、ライブ・アルバムがもの凄く多い。これまでも単品やCDR8枚セット、カセット8本セット、など色々とリリースしている。ライブ毎にすべて録音しており、タイミングさえ合えばいつでもリリース出来る音源を数多く残しているのでしょう。カセットの見直しなどで、その時々の瞬間をフィジカルにしたいと思うインディーズ系アーティストやバンドが、多くなっているのも確かです。彼らはデビュー時からライブ音源をフィジカルで残してきた先駆者的な存在だったかも知れませんね。

 

MV & EE / Green Ark 6 Disc Set(CDR)

MV & EE: GREEN ARK 6 disc set

本作は2009年から2021年の間に行った6本のライブをライブ毎に収録しています。Matt Valentine、Erika Elderの2人に加えてサポートメンバーとしてCoot Moonがベースやドラム、パーカッション、ペダルシンセとして参加。クレジットを確認するとCoot Moon は、Directionとしても記載されているので、Coot Moonが関わったライブ音源を集めたのでしょうね。

 

すべてのライブ音源は、サウンドボード録音でオーディエンス・ノイズが少ないので、最初聴いた時はスタジオ・ライブかと思ってしまった。MV & EEはバンド編成の時はMV & EE with The Bummer Road名義を使っていて、多彩なゲストが多数参加して豪華なサウンドを展開することもある。しかし、今回はシンプルに Matt ValentineとErika Elderの2人が醸し出しサウンドを基本に、サポートのCoot Moonがさりげなく絡んでいます。

 

年代毎に聴き比べてみると、2009年のフォークの佇まいから2021年のサイケデリック・ロックへの様々な変遷を感じます。面白いのは、どのライブもジャムセッション的に即興演奏へとなだれ込んでいるのです。彼らが脚光を浴びる様になった2000年代初期のフリーフォーク・ムーブメントの影響が大きいことを再確認してしまった。フリーフォーク・ムーブメントとは、これまでのフォークにエレクトロニカインプロビゼーション、ノイズなどを取り込でいく展開で、彼らの精神的な原点として脈々と受け継がれています。

 

選曲された曲について書くと、ライブの定番曲である “Flow My Ray” は2010年のアルバムLiberty Roseに収録されいます。原曲は端正なフォークなのですが、ライブではそれぞれアレンジも変更になっていて興味深いです。“Mine All Troubled Blues” は初期の名曲で2004年のアルバムLunar Blues収録で、MV & EE with The Bummer Roadの2006年のアルバムGreen Bluesにも収録しています。”East Mountain Joint(EMJ)” も同じくGreen Bluesに収録されているので、これは聴き比べするしかないですね。後は、個人的に彼らの最高傑作と思っている2020年リリースCap Tripsの収録曲 “Operator”、“Dancin' In The Street” がそれぞれ2013年、2016年に演奏されていたことも驚きでした。

 

このようにMV & EEについて、新たなる発見や再確認をしながらヘビィーに聴き捲っています。

 

1、CHAMPAGNE OF AUD soundboard live in milwaukee, WI 11​/​19​/​09

 

2、WOOK AF soundboard live in brattleboro, VT 01​/​19​/​10

 

3、INNER PEACE soundboard live in hamburg, GERMANY 11​/​26​/​13

 

4、PAY ONE PRICE soundboard live in becket, MA 08​/​01​/​15

 

5、BURN OUT soundboard live in brattleboro, VT 12​/​02​/​16

 

6、MISSUS COOT pristine aud reel live in north adams, MA 10​/​02​/​21

 

アルバム収録のライブ映像を探しましたが、見つかりませんでした。代わりに2010年のライブ映像と2014年のNelsonville Music Festivalの映像をアップしておきます。

 

Green Ark 6 Disc Setはここから購入することが出来ます。


昨年MV & EEのMatt Valentineのソロアルバムについて書いています。


 

フィンランドの前衛音楽家Pekka Airaksinenとヴォーカリストでマルチ奏者Ka Bairdとのコラボレーション作 "Hungry Shells"

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Pekka Airaksinen(1945ー2019)は60年代後半に伝説バンドThe Spermで音楽活動を始めます。名前のごとく猥雑なライブ・パフォーマンスで、メンバーが逮捕されるなどで1970年に解散してしまう。その後は、ジャズ、アンビエントニューエイジインプロビゼーションなどを中心に前衛音楽家として活動していました。そんな彼とコラボレーションを行っていたのが、NYを拠点に活動しているヴォーカリストでマルチ奏者Ka Bairdです。レコード・オンリーで2021年10月に "Hungry Shells" がリリースされました。

 

Ka Baird & Pekka Airaksinen / Hungry Shells

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本作はリリース元Rvng Intl.が仕掛ける世代を超えたコラボレーション・シリーズ FRKWYSの第17弾としてリリースされました。Pekka Airaksinenの亡くなる半年前2018年秋に制作されています。このコラボレーションはオランダのユトレヒトで毎年行われている音楽フェスLe Guess Who? 2018 が切っ掛けとなっています。フェスで演奏する曲を現地ユトレヒトで録音してそのままライブを行ったようです。

 

Ka Bairdのエクセントリックなヴォーカルやリーディング・ヴォイスにPekka Airaksinenのスピリチュアルなサウンドが鳴り響く。2人の個性が真っ向からぶつかり合って怪奇でシュールな世界を構築しています。歌詞は仏教徒であるPekka Airaksinenの瞑想中に神から授かった仏教のたとえ話をモチーフにしているとのこと。本人自らリーディングしている曲 ”Grey Body” もあってより神秘で幻想的に仕上がっています。一方で、2人がハーモニーする曲 "Roseclouds" ではポップでモダンな雰囲気をも感じられる。両者の魅力を巧く融合した作品となっています。

 

亡くなる少し前に、こんな音源を残していたとはね。昔はNWWリストに掲載されたアーティストだけに前衛音楽マニアには高い評価があったと思う。この作品で再評価されて欲しい。もっと様々な音楽リスナーにも聴いて欲しい1枚です。

 

音楽フェスLe Guess Who? 2018 でのライブ映像です。Ka Bairdのライブ・パフォーマンスが凄い!

 

Pekka Airaksinenについては、2015年にリリースされたWorks 1968 – 1976(5Vinyl BOX)を取り上げています。


 

スウェーデンのピアニストAlex Zethsonが奏でる室内楽アンサンブルによるガムランやクラウトロックの世界とは

スウェーデンのピアニストでコンポーザーでもあるAlex Zethson。Trondheim Jazz Orchestra、Fire! Orchestra、Angles 9などのメンバーであり、レーベルThanatosis Produktionも主宰しながら様々な活動を行っている。彼を中心に実験的ジャズ、現代音楽、民族音楽、ロックなど様々な形態の即興音楽シーンで活躍する13人のミュージシャンで構成されたAlex Zethson Ensembleの2021年にリリースされた1st作に魅了されています。

 

Alex Zethson Ensemble / Some Of Them Were Never Unprepared

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ガムランクラウトロック、 Tony ConradやArnold Dreyblattに影響を受けて作曲したとAlex Zethsonは語っています。ピアノ、ギター、チェロ、コントラバス、ヴァイオリン、シェイカー、ドラム、ゴングを駆使した ”Some Of Them Were Never Unprepared” のPart 1、Part 2による2曲を収録。

 

Part 1はガムランの雰囲気を醸し出すようにトン、トン、トン、といったパーカッシブでクールなミニマルミュージックを展開。ストイックな前半から後半の徐々にばらける感じがドローン的で刺激的なアンサンブルです。Arnold Dreyblattの ”Propellers In Love” に通じる部分もあって、影響を受けたことに納得。

 

Part 2は緩やかで自由奔放に音を掻き鳴らしている感じ。コントラバスの重低音をベースに各パートが自己主張をしながら一体となって攻め込んできます。Tony Conrad & Faustの “Outside The Dream Syndicate” を思わせるといったレビューも有ったが、まさにクラウトロック室内楽アンサンブルで行うとこうなるのでしょう。臨場感溢れる素晴らしい楽曲です。

アルバム・ジャケットはスウェーデン国立科学技術博物館が所有する撮影者不明のファウンド・フォトを使用とのこと。このジャケットが気になって、CDを購入することになってしまったのです。リリースは自身のレーベルThanatosis ProduktionとNYのレーベルRelative Pitch Recordsの共同リリースとなっています。

 

Alex Zethson Ensembleのラインナップです。

alex zethson ensemble — thanatosis

Torbjörn Zetterberg,、Contrabass
Elsa Bergman、Contrabass
Leo Svensson、Cello
My Hellgren、Cello
Anna Lindal、Violin & Contact Mic
Josefin Runsteen、Violin
Giannis Arapis、Guitar
Anton Toorell、Guitar
Kasper Agnas、Guitar
Andreas Hiroui Larsson、Drums & Gongs
Niclas Lindström、Shaker
Karin Ingves、Piano
Alex Zethson、Piano

 

 

2016年に設立されたAlex Zethsonが主宰しているレーベルThanatosis ProduktionのBandcampです。ミニマルミュージックやエクスペリメンタルミュージックを中心にリリースしています。多くのアルバムでエグゼクティブ・プロデューサーとしてAlex Zethsonが参加しています。