ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

もはや、孤高のギタリストではなくなったSteven R. Smithの2枚の新作!

Steven R. Smithの昨年リリースされたアルバム “In The Spires” を今後を占う重要なアルバム!として記事にした。今年になって新たなる展開を示す2枚のアルバムがリリースされました。彼について当ブログで何回か取り上げており、重複する部分もあると思うが、あれこれ書き綴っていきたいと思う。

 

ロサンゼルスを拠点に活動しているギタリストSteven R. Smith。彼は本人名義の他に、Hala Strana、Ulaan Khol、Ulaan Passerine、Ulaan Markhor、 Ulaan Janthinaと様々な名義で活動を行っています。その多くが自身ひとりによる自宅録音での製作です。ギターをメインに色々な楽器も熟すマルチプレイヤーでもあります。故に他者を受け入れずに、すべて自分で行っていた。私はSteven R. Smithを、孤高のギタリストと呼んでいた。

 

90年代中頃よりソロ活動を行いながら、サンフランシスコのサイケデリック・バンドMirzaのメンバーでもありました。このMirzaには、カリフォルニアのインディーズ・ポップ職人と言われるようになったGlenn Donaldson、そして現在Dire Wolves、Angel Archerとして活動を行いながらソロ・ユニットOld Million Eyeとしても活躍しているBrian Lucasらが参加していた。Mirza が解散した2000年代初めにはGlenn Donaldsonが立ち上げた音楽集団Jewelled Antlerの中心的バンドThujaにも参加。その頃にSteven R. Smithは東欧フォークに影響を受けたHala Stranaとしても活動しています。

 

Thujaが解散した2000年代後半より、精神的なことで引きこもってしまったようです。そんな状況の中で、1人で音楽制作を行うようになっていた。バスクラリネット奏者Gareth Davisやドローン・アンビエント作家Dirk Serriesとのコラボレーション・アルバムはあったものの、基本的には他者を受け入れずに自分のアイデアを自らの力量によって音楽にすることに没頭していた。ライブ活動も行わず、レコーディングのみ行いリリースするだけになってしまった。

 

Steven R. Smithは音楽の方向性によって名義を使い分けています。私的に区別するとHala Strana(東欧フォーク)、Ulaan Khol(ギタードローン)、Ulaan Passerine(ポストロック、フォーク)、Ulaan Markhor(サイケデリックロック)、 Ulaan Janthina(アンビエントドローン)、そして本人名義(ギターソロ)といった感じかな? アルバムによって様々な要素が入り交じっているため、分りづらい部分もあるのも確かです。そう思うリスナーがいることを本人も理解しているが、名義や音楽性に拘っていて、すべてSteven R. Smithでいいじゃないかと言うことには成らないようです。

 

他者を受け入れずに、すべてを自分で行うことについては、最近になって変化が見られるようになった。ターニングポイントになったのが2019年にリリースされたGlenn Donaldsonとのコラボレーションユニット43 Odesです。たぶん、Glenn Donaldsonが長きに渡って誘いを掛けてたのでしょうね。この43 OdesにはBrian Lucasがゲスト参加しており、アートワークも担当しています。その後、Brian LucasのソロユニットOld Million EyeにSteven R. Smithがパーカッションとしてゲスト参加。昔の仲間達が、内に籠もっていた彼を外に向けさせたことに嬉しさを感じた。

 

昨年リリースのSteven R. Smith “In The Spires” が初期のユニットHala Stranaの東欧フォーク的な雰囲気とUlaanの様々な名義で実践してきたドローン、アンビエント、ノイズを巧く組み合わせた感じです。これまでの様々な要素を纏め上げたSteven R. Smithの集大成とも言えるアルバムでした。それに続く今年リリースされた2枚のアルバムが非常に興味深い作品となっています。

Steven R. Smith / Spring

今年5月にSoft AbuseよりリリースされたSteven R. Smith “Spring” は、バスクラリネット奏者Gareth Davisが参加しています。2010年のコラボレーション・アルバム “The Line がAcross” 以来のコラボです。これまでのアヴァンギャルドなギター・ソロに比べると、より歌に特化したアルバムにしたかったそうです。ヴォーカルは入っていませんが、メロディー・ラインを意識したGareth DavisのバスクラリネットやSteven R. Smithのギターワークが冴え渡っています。バスクラリネット以外の音は、すべてSteven R. Smithが行っており、後からGareth Davisが音を入れることで作り上げています。以前はギターとバスクラリネットの音が真っ向勝負していましたが、今回はSteven R. Smithのサウンドの隙間をGareth Davisが巧く埋めています。聴き込むことで一つの物語を感じるアルバムです。

 

Ulaan Passerine / Sun Spar

今年9月に自身のレーベルWorstward RecordingsよりリリースされたUlaan Passerine名義のアルバムです。Steven R. Smith(ギター、ベース、ドラムス)、Glenn Donaldson(バンジョー、ギター)、Brian Lucas(カシオトーン、テープス)、Gareth Davis(バスクラリネット)、Yvonne Sone(オルガン)、Michelle Bailey(ヴァイオリン)、Nick Collias(フルート)、Filippo Tramontana(フレンチ・ホーン)の総勢8人のメンバーで制作されています。

 

Glenn Donaldson、Brian Lucasといった昔の仲間達や “Spring” にも参加しているGareth Davisを始として管弦楽器のメンバーが参加して、フォーキーなポストロックといった雰囲気を醸し出しています。Steven R. Smithだけでは、決して作り上げることの出来なかった世界だと思う。やはり、カリフォルニアのインディーズ・ポップ職人としてReds, Pinks & PurplesやSkygreen Leopardsを率いていたGlenn Donaldsonの存在が大きい。Steven R. Smithの様々なアルバムって身構えて聴くことが多いけど、このアルバムだけはまったりとエンドレスに聴くことの出来る傑作です。

もはや、孤高のギタリストではないですね。今年の2作は、音楽的方向性が違っているけど、両方とも素晴らしいです。是非、聴いて欲しい!!

 

 

これまでSteven R. Smithについて、色々と取り上げています。纏めてアップして置きます。

2021年リリース、Steven R. Smith / In The Spire

2020年リリース、Ulaan Janthina

2013年リリース、Steven R. Smith、Ulaan Khol / Ending/Returning

2012年リリース、Ulaan Markhor