ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

SunwatchersとEugene Chadbourneのコラボレーション・アルバム “3 Characters” が奏でるMinutemen、Doug Sahm、Henry Flyntの世界!

政治的メッセージを掲げながら、ジャンルの垣根をぶっ壊して様々なサウンドを奏でるポストパンク・バンドSunwatchersと70年代からジャズ、カントリー、フォーク、ブルース、ロックなど自由奔放に独自の音楽を構築してきたギタリストEugene Chadbourne。両者の2018年リリースで廃盤となっていたコラボレーション・アルバム “ 3 Characters” (2枚組レコード)を入手しました。リリース元のAmish Recordsにデッドストックがあったようです。

 

Sunwatchers and Eugene Chadbourne / 3 Characters

本作は2016年10月に2日間のセッションとして行われました。Sunwatchersの4人、 Peter Kerlin(ベース)、Jim McHugh(ギター)、Jason Robira(ドラム)、Jeff Tobias(サックス、キーボード)にEugene Chadbourne(ヴォーカル、ギター、バンジョー)、さらに特別ゲストとして80年代ポストパンク・バンドMinutemenのメンバーであったMike Wattが参加。タイトルの3 Charactersとは、Minutemen(80年代)、Doug Sahm(70年代)、Henry Flynt(60年代)の音楽を示しています。この3組はつねに独自の視点で音楽活動を行っていた。彼らの音楽を現在に継承していくこととSunwatchersとEugene Chadbourneの音楽原点を再確認することを踏まえて、カヴァー・アルバムを制作しました。

LP1、Bandcampの1曲目から10曲目までが、Minutemenのカヴァー中心に纏められています。その中で、Ghost Spiel 、Joe McCarthy's Ghost(s)は、Minutemenのカヴァー曲ではないです。しかしMike Wattが深く関わっています。Ghost Spielでは50年代のアメリカのジャーナリストEdward R. Murrowが書いたテクストを読み上げ、Joe McCarthy's Ghost(s)ではAlbert AylerのGhostをモチーフにMike Wattが歌詞を書いています。Joe McCarthyはアメリカの政治家で、Edward R. Murrowが批判し対立関係にあったようです。この2曲は、その場の会話の中から即興で作り上げたのでしょうね。Mike Wattはアドバイザー的な立ち位置だったのかな?他のMinutemenのカヴァーは本家よりもノイジーでソリッドに響かせ、Eugene Chadbourneのヴォーカルが見事に嵌まっています。素晴らしいです。

 

LP2のA面、Bandcampの11曲目から14曲目までが、Doug Sahmのカヴァーです。Doug Sahmについては、よく知らないのですが、アメリカン・ルーツ・ミュージックにも精通しており、カントリー、ブルース、R&B、ロックンロールなど幅広い音楽を取り上げているアーティストです。1曲目Chicano が、伴奏なしで歌詞だけをMike Wattがリーディングしています。ダークな雰囲気でちょっとヤバいなあと思ったけど、続く3曲が本来の編成で活力溢れるサウンドで安心しました。Eugene Chadbourneが淡々と歌い上げ、Sunwatchersのサウンドがしっかりと支えてる感じに、思わず笑みがこぼれてしまった。 

  

LP2のB面、Bandcampのラスト15曲目が、Henry Flyntのカヴァーです。彼は前衛音楽家として60年代にフルクサス運動に参加します。ただ、政治的イデオロギー権威主義的なことですぐにその一派から遠ざかってしまう。そして、彼が向かったのは大衆音楽として根づいていたロックでありブルースでした。ヴァイオリニストだった彼にギターを教えたのがLou Reedという話もあって、Velvet Undergroundライブサポートも行ったこともある音楽家です。1曲のみですが、これが凄い。1966年に録音されたバンド名義Henry Flynt & The Insurrectionsのアルバム “I Don't Wanna” に収録されているUncle Sam Doのカヴァーです。オリジナルは3分弱の曲ですが、8分を越えるロングヴァージョンに仕上げています。元祖ローファイでブルース的なサウンドをSunwatchersとEugene Chadbourneが、現在へと蘇させています。

 

このコラボレーションは、お互いに自己主張しながら双方の魅力を余すところなく伝えている。カヴァーの素材として選んだ三つのキャラクターが、完全に彼らのサウンドとして機能していることに凄さを感じる。是非、オリジナル音源との聴き比べをして欲しいと思う。そして、Sunwatchers、Eugene Chadbourneを始めとして、Minutemen、Doug Sahm、Henry Flyntにも興味を持って頂けると有難いです。

 

 

 

参考までにEugene Chadbourne、Sunwatchers、Henry Flyntについて書いています。