ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

米国のコントラバス奏者Devin Hoffによる60年代英国フォーク界のカルト・レジェンドAnne Briggsのトリビュート・アルバム!

Devin Hoff - Alchetron, The Free Social Encyclopedia

米国のコントラバス奏者でコンポーサーでもあるDevin Hoff。これまで様々なバンドやプロジェクトで活動を行っていました。ソロ活動でもコントラバスを中心としたアルバムをリリースしています。今回、60年代英国フォーク界のカルト・レジェンドAnne Briggsのトリビュート・アルバムをリリースしました。

 

Devin Hoff – Voices From The Empty Moor (Songs Of Anne Briggs)

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Devin Hoff は10年以上にわたってAnne Briggsの音楽に魅了され研究してきました。その経緯を理解して賛同したアーティスト達が集まって制作されました。Devin Hoffのコントラバスを中心としたサウンドに 4人のシンガーSharon Van Etten、Julia Holter、Shannon Lay、Emmett Kellyとサックス奏者Howard Wiley、ウード奏者Alex Farha、ドラマーJim Whiteが参加。本作は個々のメンバーとのコラボレーションとDevin Hoffのソロ演奏による構成となっています。

 

Anne Briggsの音楽の神秘と美しさを尊重しながら、英国のアシッド&トラッドフォークを独自の視点で捉えています。ヴォーカル曲は歌そのものを前面に押し出して、Devin Hoffのコントラバスなどの音がさり気なく、時には力強く鳴り響いて素晴らしいです。インストにアレンジされた曲はDevin Hoffだからこそ作り上げたと思う仕上がりで、Anne Briggsへのオマージュを感じることが出来ます。ヴォーカル曲とインスト曲をバランス良く配置した全9曲。Devin HoffによるAnne Briggsの世界を聴いてみてください!

 

 

Anne Briggsの存在については、Devin Hoffが取り上げたことで初めて知りました。Wikipediaによるとジミー・ペイジなどの曲や音楽インスピレーションの源泉となったとも書かれています。最も過小評価されている歌手の一人でありながら、商業的な成功を望んでないので、今後も表舞台に出ることは無さそうですね。まさにカルト・レジェンドと言うべき存在であります。


 

 

L.A.F.M.S.オールスターズ・ノイズ・オーケストラAirwayの 2019年ライヴ音源!

Los Angeles Free Music Society (Airway) performance at the Museum of Contemporary Art, Los Angeles.

L.A.F.M.S.(Los Angeles Free Music Society)は、Le Forte FourのメンバーであったJoe Potts、Rick Potts、Chip Chapmanらによって1974年に Captain BeefheartFrank Zappaなどに影響を受けたアヴァンギャルドなアーティストの集団として結成されました。Le Forte Fourを始めとして、Smegma、Doo-Dooettes、その他ノイズやインプロなどのフリー・ミュージックを奏でるバンドやアーティストが参加。レコード製作、ライブ主宰を中心に、アートやファンションといった分野まで現在も幅広く活動を行っています。 

 

本日はJoe Potts率いるL.A.F.M.S.オールスターズ・ノイズ・オーケストラAirway の新作 “Live At Zebulon” が昨年12月にリリースされたので紹介します。AirwayはJoe Pottsの1977年にリリースした7インチシングルのタイトルでした。音によるサブリミナル効果や幻覚症状が如何に引き起こされるかを考えていたらしい。その試みをより深く実践しようとメンバーを集めて1978年にAirwayとして最初にリリースされたのが「Live At LACE」です。これまでに日本のノイズバンド非常階段とのスプリット・アルバム2作を含めて6作リリースされています。すべてライブ音源であります。サブリミナル効果や幻覚症状をリスナーに喚起させるには、一発勝負のライブ現場しかあり得ないということなのでしょうね。

 

Airway / Live At Zebulon

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2019年12月12日の地元ロサンゼルスでのライブ音源。メンバーとしてライブにも参加しているJohn WieseのレーベルHelicopterからのリリースです。L.A.F.M.S. のオールスターを中心とした13名編成で、ギター、ベース、ドラム、エレクトロニックス、木管楽器、テープ音源などが、自由奔放に掻き鳴らす異様なノイズ空間を構築。そこにVetza & Mayaのヒステリックなボーカルが絡む不思議な世界に惹き込まれます。

 

2018年リリースの前作 “Live At Moca” のように事前に提供された日本人アーティストJojo広重、冷泉淳、美川俊治ら9名の音源もTeam Airway Japanとして、その現場でミックスして流してしまう荒技がありました。今回はそうした仕掛けはないけど、前作同様にJohn Wieseがミックスを担当。彼は近年のAirwayにとって欠かせない存在です。カオスしつつもスッキリと纏めあげていて、これまで以上に中毒性の高いサウンドに仕上がっています。Airwayの最高傑作と言っても良いでしょう! 是非、大音量で聴いてサブリミナル効果や幻覚症状を体感してみてくだい!!

 

Airway / Live At Zebulonのラインナップです。

Guitar – Kevin Laffey、Rick Potts

Bass – Keith Lubow

Drums – Aaron Moore、Michael Ruiz

Electronics – Joe Potts、John Wiese

Woodwind – Ace Farren Ford

Tape – Joseph Hammer

Performer [Kaoscillators] – Fredrik Nilsen

Performer [Objects] – Tom Recchion

Vocals – Maya、Vetza

 

流石、L.A.F.M.S.オールスターズと言われる面々ばかりです。その中でちょっと興味深いことを発見しました。何と、イギリスのアヴァンギャルド・バンドVolcano The Bearの Aaron Mooreがドラマーとして参加しています。音楽的方向性は一致していますので、今後コラボレーションなど新たな展開に期待出来そうですね。

 

 

 

L.A.F.M.S.関連について、これまでも色々と書いています。


Volcano The Bearについても書いています。


 

2021年アルバム・ベスト10

年明け最初の投稿はいつものようにアルバム・ベスト10です。毎度の拙い文章ですが、毎回読んで頂いている皆さんに感謝です。今年もよろしくお願いします。

 

渋谷陽一の著書に「ロックはどうして時代から逃れられないのか」というのがある。昨年はまさにその言葉を表したように、今この時代に何を伝え、どう響かせるかを問うたアルバムが多かった気がする。素晴らしいアルバムが多く選考に悩みましたが、何とか10枚を選びました。過去にベスト20にしたこともありましたが、自分の中で収拾がつかなくなったこともあって今回もベスト10です。2021年リリースの新作アルバムを対象にメジャーからマイナー、ベテランから新人、ジャンルも色々ですが、個人的にはバランス良く纏まったと思っています。

 

No.1 Low / Hey What

スロウコアの先駆者とも言われるLow。その原点を押さえつつ、これまで培ってきたなエッセンスを凝縮させて異次元の世界へと達した最高傑作! 


 

No.2 The Telescopes / Songs Of Love And Revolution

1987年から活動を続けるイギリスのサイケデリック・バンドThe Telescopes。Stephen Lawrieのソロ・プロジェクトですが、よりガレージな雰囲気をも兼ね備えたギターバンド的なサウンドになっています。今だからこそLove And Revolutionなのでしょうね。


 

No3 Sky Burrow Tales / Seafarin' & Backporchin'

レーベルFeathered Coyote Recordsを主宰しながら、様々なバンドやプロジェクトでも活動しているUlrich Rois。原点に戻って彼を支えてきた相方Swantje Musaと組んだSky Burrow Tales。フリー・フォーク・ムーブメントの雰囲気を彷彿させる傑作!


 

No.4 Matt Lajoie / Paraclete Tongue

Ash Brooksと共にレーベルFlower Room を主宰しながら、様々な活動を行っているMatt Lajoie。今年多くのアルバムをリリースしています。その中からの1枚です。ギターニューエイジミュージックによる全4曲。牧歌的な雰囲気も醸し出しながら広大な宇宙へと導いてくれます。


 

No.5 Pelt / Reticence、Resistance

今年はPelt派生バンド、Black Twig Pickers、Spiral Joy Band、Eight Point Starの新作がリリースされました。どれも素晴らしいアルバムでしたが、最後にPelt本体の9年振りとなる新作がリリースされれば、もうこれしかないですね。故Jack Roseと正面から向き合った傑作!


 

No.6 Six Organs Of Admittance / The Veiled Sea

90年代後半よりギタリストBen Chasnyのソロ・プロジェクトとして活動しているSix Organs Of Admittance。本作は多彩な要素を含んで、単なるギタリストで終りたくないという意欲を感じると共に、でもギタリストであることを再確認させられるサウンドを巧く纏め上げた傑作!


 

No.7 Sam Gendel & Sam Wilkes / Music for Saxofone and Bass Guitar More Songs

2人とも今や大人気のミュージシャンです。2018年リリースのMusic for Saxofone and Bass Guitarの第1弾の流れを踏襲しつつ、本作ではより自由でエクスペリメンタルなサウンドに仕上がっています。素晴らしいアルバムです。


 

No.8 Antoine Loyer & Megalodons malades、Begayer / Sauce chien et la guitare au poireau


ベルギーのシンガーソングライターAntoine Loyerとフランスのサイケ・トリオBegayerのスプリット・アルバムでありコラボレーション・アルバムです。両者の魅力を1枚のアルバムに詰め込んだ独創性あふれる傑作!      


 

No.9 Steven R. Smith / In The Spire

様々な名義を使うことで隠者的なイメージを持たれていたSteven R. Smith。いよいよ表舞台に出てくる日も近いと感じる重要なアルバム。


 

No.10 Liila / Soundness Of Mind

禅宗寺院での共同生活で出会い結成されたLiila。全体的にオリエンタルな雰囲気が漂っています。彼らの原点となっている禅宗の影響が大きいのでしょうね。まさに心が洗われる素晴らしいアルバムです。


 

今年もサブスクやデジタルが主流の中で、フィジカルに拘ってコツコツと買い続けていきますね。それと、2年間何もライブに行くことが出来なかったので、ウズウズしています。いい年になって欲しいです。

 

 

2021年12月のディスカホリック

12月のディスカホリックは14タイトルの購入実績です。今月は年間ベスト10の選出で色々と聴き直しを行っているため、購入したアルバムをあまり聴けていません。まあ、ディスカホリックは購入履歴ということで。年間ベスト10については、次の更新で発表出来ると思います。来年になりますけどね。尚、記事の最後の方に、今年の購入数、フィジカルメディア別、購入先別もアップしています。

 

Matt LaJoie / Red Resonant Earth(Cassette) 購入先Flower Room Bandcamp 購入価格$18.50 USD(2,202円)

今年色々と購入してしまったマルチアーティストMatt LaJoieの最新カセット。

 

 

Starbirthed / Reflections of the Samith(Cassette) 購入先Flower Room Bandcamp 購入価格$16.50 USD(1,964円)

Matt LaJoieとAsh BrooksとのドローンアンビエントユニットStarbirthedの最新カセット。

 

 

Anna Webber / Idiom(2CD) 購入先Amazon.co.jp 購入価格1,673円

NYを拠点に活動しているサックス、フルート奏者Anna Webberの21年作。

 

 

Roope Eronen / The Inflatable World(Vinyl) 購入先Amazon.co.jp 購入価格1,735円

フィンランドのレーベルLal Lal Lalを運営し、スペースロックバンドAvarusでも活動するRoope Eronenの21年ソロ作。

 

 

MV & EE / Green Ark 6 Disc Set(6CDR) 購入先mvandee.blogspot.com 購入価格$74.00 USD(8,772円)

画像

Matt ValentineとErika ElderによるMV & EEの2009年から2021年のライブ音源をセットにした6枚組。

 

 

PG Six & Louise Bock / All Summer Long is Gone(Cassette) 購入先Store15Nov 購入価格1,972円

Matt ValentineとデュオWet Tunaとしても活動しているPG Sixとサックス奏者Louise Bockとの21年コラボレーション・アルバム。Louise BockはTaralie Peterson名義でDire Wolvesのメンバーでもあります。

 

 

Sahba Sizdahkhani / Ganj(Cassette) 購入先Store15Nov 購入価格2,062円

Sahba Sizdahkhaniによる弦楽器サントゥールとドラムを駆使したミニマルな世界。カセットレーベルCassaunaからの21年作。

 

 

Sunburned Hand of the Man / The Air Itself(CDR) 購入先Sunburned Hand of the Man Bandcamp 購入価格$19.00 USD(2,248円)

自主レーベルManhandからの最新アルバム。

 

 

Sunburned Hand of the Man / Live Burn 8-Tv Eye-10​/​17​/​2021(CDR) 購入先Sunburned Hand of the Man Bandcamp 購入価格$19.00 USD(2,248円)

自主レーベルManhandからの2021年10月17日のライブ音源。

 

 

Thurston Moore & John Moloney /  Caught On Tape-Banjaxed Blues(Cassette) 購入先Sunburned Hand of the Man Bandcamp 購入価格$21.00 USD(2,485円)

Sonic YouthThurston MooreとSunburned Hand Of The ManのJohn MoloneyによるCaught On Tapeの2014年リリースのアルバム。

 

 

Devin Hoff / Voices From The Empty Moor (Songs Of Anne Briggs)(CD) 購入先Disk Union Online Shop 購入価格1,881円

コントラバス奏者でコンポーザーであるDevin Hoffの新作。英国フォークシンガー Anne Briggsのカヴァー2曲を含めて、彼女に対するオマージュを3人のシンガーを起用して作り上げたアルバム。

 

 

Airway / Live At Zebulon(CD) 購入先Disk Union Online Shop 購入価格2,090

L.A.F.M.S.(Los Angeles Free Music Society)のオールスターズ・ノイズ・オーケストラAirway の2019年ライブ音源。

 

 

Annea Lockwood / Early Works 1967-82(CD) 購入先Disk Union Online Shop 購入価格1,140円

Early Works 1967-1982

ニュージーランド出身の実験音楽家Annea Lockwoodの初期のアルバム “The Glass Worl” に伝説のUS誌Source Magazineで発表された音源 "Tiger Balm" を追加収録したコンピレ-ション盤。2007年に日本のレーベルEM Recordsよりリリースしていました。

 

 

Modern Nature / Annual(Vinyl) 購入先WOW HD 購入価格2,882円

ロンドンを拠点とするModern Natureの20年作。SunwatchersのJeff Tobiasがサックス、バスクラリネットで参加しています。12月後半にリリースされた新作も注文しています。 

 

 

2021年の年間では152タイトルも購入していました。サブスクやデジタル配信が主流のなかでフィジカルメディアに拘るのは、私の様な爺世代だけかもしれませんね。今年はフィジカルメディア別、購入先別も集計してみました。

 

フィジカルメディア別 

       レコード     53

  カセット     46

  CD         37

  CDR         16

カセットの購入数がCDよりも上回っています。少し前まではカセットをアンチデジタルと称した言い方をしていたけど、今はDLコードが付いている。フィジカルに拘るリスナーは、DLコードが付いているのであれば、CDじゃなくても良いのです。実際、海外ではカセットのみのリリースも多いのも確か。ただ、日本じゃそう成らない。カセットオンリーのリリースが、日本独自企画としてCDリリースされる事もある。日本では未だにCDの人気が高いしね。

 

●購入先別(実店舗での購入はありませんでした)

  Bandcamp                52

  Amazon.co.jp           25

  Tobira Records         22

  Disk Union                11

  Discogs                       8

  Art Into Life                7

  Meditaions                  7

  Store15Nov                 4

  Walts                            3

  Mvandee blogspot      3

  Small Warld                 2

  The stone record         2

  Wow HD                       2                        

  Big love records          1

  Nat records          1

  Reconquista                 1

  Grapefruit Record       1

Bandcampでの購入が多くなっている。ダイレクトにアーティストやレーベルと繋がれるのが魅力です。今年も何人かのアーティストとメッセージのやり取りを行いました。英語力のない私ですが、翻訳アプリの英文で何とか対応出来たことに嬉しさや楽しみも感じる。ただ、海外なので、送料が高くなるデメリットもあるけどね。あと、購入が多いのは、兵庫県加西市にあるレコード店Tobira Recordです。カセットを中心に私の好みに合いそうなアイテムを揃えています。カセット購入が増えたのはTobira Recordのお陰ですね。


 

 

Richard Youngsの今年リリースされた2枚のレコードより

Richard Youngs - Alchetron, The Free Social Encyclopedia

毎年多くのアルバムをリリースしているイギリスのエクスペリメンタル系アーティストRichard Youngs。今年も私の知る限りでは、コラボレーションも含めフィジカルとして5タイトルリリースしている。デジタルなどでも公開になっているので、すべて購入する必要性は無いけど、これまでにレコードを2枚購入している。これを書いている途中でもう1枚ポチッとしてしまった。海外からなので来年に届く予定。今回はすでに手元にある2枚のレコードを取り上げます。

 

Richard Youngs / Holograph

Glass Modernから今年4月にリリース。Glass ModernのレーベルオーナーDave Barkerから2020年10月23日の金曜日にアルバム制作の依頼を受けて、翌日土曜日より制作開始。音源は 10月27日に終了してDave Barkerへと送られて、その後、Colin Lloyd-Tuckerがマスターを行った。この様な “Holograph” の制作過程がアルバムジャケットに書かれています。アルバム制作の依頼を受けた時には音源のストックは無かったとも書いている。

 

Richard Youngsはヴォーカル、ギター、ベース、リズムボックスを駆使して1人で録音しています。フォーク、スペース・ロック、トロピカリアといった雰囲気を感じさせつつ、シンプルな演奏でリズムボックスがボコポコ鳴り響く中で、ヴォーカルがより一層際立つ作りです。奇をてらった仕掛けはないけど、彼の淡々とした歌声が心に突刺さってくる傑作です。

1人での録音とは言え、アルバムを4日間で仕上げてしまうことに驚いている。聴くごとに新鮮味が増してくる感じです。時間を掛けて丁寧に作り上げるよりも、即興でその時のインスピレーションを大切にしているRichard Youngsの思いも伝わってくるアルバムです。

 

 

Richard Youngs / CXXI

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オーストラリアのOren Ambarchiが設立したレーベルBlack Truffleより今年9月にリリース。レーベルカラーを意識したのか、アヴァンギャルドなドローンアルバムとなっています。タイトルのCXXIはローマ数字の121であり、Richard Youngs の121作目のリリースです。そしてエレクトロニクスを駆使して121のマイナーコードを中心にサウンド構築されているとのこと。アルバムジャケットのグリッド・デザインによるコード表は、本人によるアート・ワークです。

 

エレクトロニクスにフィールドレコーディング素材やテープ音源を加えた全2曲。1曲目の“Tokyo Photograph” では本人のヴァーカル、Sophie Cooperのトロンボーンもフィーチャーして、メランコリックにゆらゆらと鳴り響いています。続く “The Unlearning” はよりミニマル・ドローン色を強調してゆっくりと白昼夢を見るがごとく桃源郷へと導いてくれます。

“CXXI” は初のBlack Truffleからのリリースです。Oren Ambarchiとのコラボレーションもこれまで有りそうで無かったので、これを切っ掛けに2人で何かやって欲しい期待感が出てきました。今後がちょっと楽しみですね。

 

 

 

因みに、現在注文していて来年届くアルバムは、Fourth Dimension Recordsからリリースされた "Iker" です。アコースティック・ギターを中心とした野外レコーティングらしい。届くのが楽しみです。

 

Richard Youngsは3年前にも取り上げています。

 

 

Dave Ruderの新作 ”not Great”、ギターポップソングから管弦楽器を駆使したコンテンポラリーな曲まで纏めた傑作!

f:id:hiroshi-gong:20211213220033j:plainギタリスト、クラリネット奏者、そしてヴォーカリストマルチプレイヤーとしてブルックリンを拠点に活動しているDave Ruder 。4年振り5作目となる新作がリリースされました。コロナ渦での制作で彼自身の様々な思いが伝わってくるアルバムとなっています。

 

Dave Ruder / not Great

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本作の構想は2019年には出来上がっていたようです。2020年春にライブで録音することを計画していたのですが、2020年3月にDave Ruderがコロナに感染します。本人も含めて参加メンバー7人は、個々に自宅で録音を行い、それをミックスしてアルバムを作り上げようとしていました。ところが、今年1月に2度目のコロナ感染。後遺症として彼の手首が悪化して楽器演奏が出来なくなったのです。一部の曲については代役ギタリストJonah Rosenbergを起用して、今年11月にやっとリリースされました。

アルバムタイトルが示すように、Dave Ruderの心情は複雑だったのでしょう。その辺りを踏まえてコロナ渦で疲弊した人々に対するメッセージです。様々な悲しみや焦りなどをポジティブに捉えて穏やかで優しく歌い上げています。バックを支えるサウンドは、これまで彼が関わってきたバンドやプロジェクトの要素なども凝縮。ギターポップソングからヴァイオリン、チェロ、ビオラクラリネット、ホルンの管弦楽器を駆使したコンテンポラリーな曲まで、彼のヴォーカルとの絡みも最高に良いです。シンガーソングライター及び作曲家としての力量を遺憾なく発揮した傑作!

 

Dave Ruder が関わってきたバンドやプロジェクトのメンバーThee RepsのSam Morrison(ピアノ)、thingNYのIsabel Castellvi(チェロ)も参加しています。彼らが自宅で録音した音源をミックスしたのがCloud Becomes Your HandのStephen Cooperです。寄せ集めた音源を一貫したトーンで雰囲気良く纏め上げているのが凄い。Stephen Cooperについては、早くCloud Becomes Your Handを復活させて欲しいと思っていますが。

 

尚、Dave Ruderの症状は完璧とまで行かないけど、クラリネットなど演奏できるところまで回復している。簡単なストリートライブパフォーマンスなど行っているようです。コロナに負けずに頑張って欲しい!!

 

 

 

Dave Ruderが関わっているバンドThee Repsについて書いています。

 

Dave RuderはレーベルGold Bolus Recordingsも運営しています。

 

このアルバムもGold Bolus Recordingsからのリリースです。


 

 

Lowの新作 ”Hey What” 異次元の世界へと達した最高傑作!

USミネソタ出身のAlan SparhawkとMimi ParkerによるインディーズバンドLow。13作目となる凄いアルバム “Hey What” がリリースされました。彼らの20年前の2001年初来日を今は無き原宿アストロホールで観ています。思入れもあるバンドですが、このブログでは取り上げていませんでした。今回は “Hey What” を含めてLowについてあれこれ書きたいと思う。

 

まずはLowのバイオグラフィ的なことを書きます。1994年に3人組としてアルバム・デビューします。インディーズ界の異端児Kramerが、1st “I Could Live In Hope”と2nd “Long Division” のプロデュースをしたことで注目されました。初期から中期にかけてLowを支えていたベーシストZak Sallyは2ndからの参加でした。当時、隆盛を誇ったグランジへの反発として、物憂げなメロディとスローテンポなリズムをミニマリスティックに掻き鳴らしていた音楽やバンドなどをスロウコアと呼んでいた。Lowはその先駆者的な存在でもあった。

 

1999年にシカゴの実験的なレーベルKrankyに移籍。1999年 “Secret Name”、2001年 “Things We Lost in the Fire”、2002年 “Trust” の3枚のアルバムをリリースしている。個人的に “Things We Lost In The Fire” が好きなアルバムで、レコーディング職人として売れっ子だったSteve Albiniがレコーディング、ミックスに参加していました。有名なChristmas限定アルバムをリリースしたのもこの時期ですぐに廃盤となったが、のちにKrankyがリイシューして、現在はSub Popが何年か期間を空けてリイシューしてる。この頃のLowが好きなファンが多いのも確かです。その後、バンドとしての様々な試みが始まります。

 

2004年にSub Popに移籍して “The Great Destroyer” をリリース。オルタナティブ色を強調していて、これはこれで良い感じに纏め上げていたが、どことなく普通のロックバンドになった感じがしていた。2005年にベーシストZak Sallyが脱退。代りのベーシストを入れて、様々な要素を取り入れたアルバム ”Drums And Guns” を2007年にリリース。ちょと違うと感じがして、これでLowも終ったと思ったが、商業的には大成功を収める。新たなファンを獲得する一方で、1部のファンが離れていたのも確かであった。

 

そんな中、あのRobert Plantが2010年のソロ・アルバム “Band Of Joy” でLowの “The Great Destroyer” からの曲を2曲もカヴァーしたのでした。“Band Of Joy” のプロデューサーBuddy MillerがLowの音楽を紹介したようです。Robert Plantはインタビューで「The Great Destroyerは素晴らしい音楽だ!Jerry Lee LewisとHowlin' Wolf のそばでいつも家の中で遊んでいる。すべての余地がある」と語っています。普通のロックバンドになった・・・じゃなかったですね。慌てて何回も聴き直してしまった。Alan Sparhawkはサイドプロジェクトでブルースやゴスペルを中心としたバンドThe Black-Eyed Snakes、Retribution Gospel Choirなどでも活動していたことをその時に知った。Alan Sparhawkの音楽センスはただ者じゃないことを再確認したのであります。

 

“The Great Destroyer”からのMonkeyとSilver Riderの2曲が、Robert Plantにカヴァーされています。両方アップしますので聴き比べてください。

 

2011年に4年振りとなる新作 “C'mon” をリリース。4年のインターバルはLowにとっては長い期間だったのです。Robert PlantのカヴァーはAlan SparhawkにLowと向き合う切っ掛けなったのかもしれませんね。それで、Lowが出した回答は原点回帰と言える90年代後半から2000年代初期のサウンドでした。この“C'mon”のサウンドでLowが戻って来たとホッと一安心したファンも多いと思う。その流れを引継いで2013年にWilcoのJeff Tweedyプロデュースで “The Invisible Way” をリリース。アルバムデビュー20周年ということもあってこれまでのLowの集大成を表したアルバムとなった。

 

2015年リリースのBJ Burtonをプロデューサーに起用した “Ones And Sixes” は、Lowらしさを維持しつつも、ザラついたサウンドとエレクトロニックなリズムを駆使したアルバムとなった。新たな展開と思っていたが、これはまだ序章でしかなかったのです。続く2018年リリースの ”Double Negative“もBJ Burtonプロデュースで、彼らのこれまで培ってきたスロウコア的サウンドにノイズやシンセの音が鏤められて、よりダイナミックで幻想的に聞えます。 この変貌ぶりに驚いてしまったが、もう後戻りは出来ないといった彼らの信念を感じたアルバムだった。

 

 

Low / Hey What

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2021年9月にリリースされた新作 “Hey What” は、前作”Double Negative“ と同じくBJ Burtonをプロデューサーに起用して、ノイジーともアンビエントとも捉えられる音像を散りばめながら、歌物アルバムを作り上げたのです。Alan SparhawkとMimi Parkerのヴォーカルは一点の迷いもなく力強く歌いあげてくる。彼らの祈りに満ちた歌声はゴスペル、賛美歌の世界なのです。個々の歌も凄いのですが、やはり2人のハーモニーは圧巻です。ここまでポジティブなLowはこれまで無かったと思う。

 

凄いのは歌だけじゃ有りません。2人の歌を支えるサウンドも凄い。インダストリアル・ノイズからグランジギターまで駆使して荒っぽく攻め込んできます。かと思えば、無機質な音を延々とアンビエントさせて歌の精神的な凶暴さも醸し出している。歌とサウンドとのせめぎ合いを感じつつ、時には真っ向からぶつかり合いながら、不協和音を繰り返して高揚感を感じさせるアルバムです。

 

全10曲収録で曲間が無いまま次の曲へ入っていく。アルバム全体で一つの物語を築き上げようしています。スロウコアという原点を押さえつつ、これまで培ってきたなエッセンスを凝縮させて異次元の世界へと達した最高傑作! ジャンルの垣根を越えて様々な音楽ファンに聴いて貰いたい1枚。もちろん、2021年のベスト・アルバムであるのは言うまでもありません。

Lowは来年のロサンゼルスで行われるPrimavera Soundフェスに出演することが決まっている。“C'mon” の時より参加していたベーシストSteve Garringtonは脱退して本作には参加してない。はたして、どんなスタイルでライブを行うのか興味芯々です。施肥ともフジロックにも出演して欲しい!

 

全10曲、どの曲も素晴らしいのですか、これだと思う3曲をYouTubeでもアップしておきます。