前回に引き続き今回もイギリスの実験レーベルHorn of Plentyからリリースされた作品を取り上げます。ソロ活動を含めて様々な活動を行い、レーベルCor Ardensも運営する奇才Jim StrongとソロユニットPeople Skillsとしても活動しているJesse S. Dewlowに、Goda Trakumaite、Esther Scanlundが、参加して結成されたアメリカ・フィラデルフィアのフリーフォームバンドEyes of the Amaryllis。彼らの昨年9月リリースの2ndアルバムを紹介します。
今、個人的に注目しているイギリスの実験レーベルHorn of Plenty。これまでにNein Rodere、William Henry Meung、Idea Fire Company、そして、今回のEyes of the Amaryllisを個別に取り上げてきました。ベテランや新人、あるいは新作やリイシューに関係なくレーベル・カラーに合う作品は積極的にリリースしています。今月も幾つか購入しています。また紹介出来るかな?
結成35周年を迎えたScott FoustとKarla Boreckyによるアメリカ・マサチューセッツのデュオIdea Fire Company。結成時からインダストリアル、ポストパンクをベースにしながらコズミック、ミニマル、ジャズ、クラシックを取り入れてアヴァンギャルドに変革してきました。35周年に合わせた記念すべき作品が、昨年9月にイギリスの実験レーベルHorn of Plentyからリリースされました。個人的に今注目しているHorn of Plentyからで、これはもう取り上げるしかないですね。
バスルーム・リバーヴの響きを利用したプリミティブな音響作品で、より近くで演奏していて、メンバーの息遣いが感じられる雰囲気です。2曲目、3曲目でMatt Krefting、Timothy Shortellの2人がシンセでゲスト参加しています。これまでもIdea Fire Companyを支えてきた2人です。ただ、狭いバスルームの中で、どのように録音していったのかも気になります。
やはり圧巻なのは、ラスト曲で20分を越える “The End Of The Line” です。2016年に作られた曲で、近年のライブ定番曲とのことです。ライブごとにアレンジを変えていることもあって、2018年に4つの別テイクによるカセット音源をリリースしています。その時に、このバスルーム企画もあって、作品としてリリースすることを考えていたようです。
Lo-Fiドローンを軸とした電子音楽でありながらも、どことなくアコースティックに聞こえてしまう。不思議で緩い音風景を作り上げています。ドライで淡々とした電子音楽が多いなかで、人間味あふれる1枚です。これがIdea Fire Companyの美学なのでしょうね。結成35周年は、彼らにとって通過点でしかないように思った。
この記事を書こうとした時に、Idea Fire Companyの2008年リリース “The Island Of Taste” が、2019年にスウェーデンのDiscreet Music傘下のリイシューレーベルFördämning Arkivからリリースされていることを知った。すぐさまDiscreet Musicに注文しました。
Idea Fire Company / The Island Of Taste
ハーシュ・ノイズの重鎮The New BlockadersのRichard Rupenus、レーベルKyeのオーナーGraham Lambkin、Frans de Waardなど総勢8名が参加しています。Discreet Musicが手掛けているだけに、Idea Fire Companyの中でも重要な一枚であることは間違いないです。
このところフォークに凝っている。でも古典的なフォークではない。2000年代前半にフリーフォーク・ムーブメントがマニアックに盛り上がっていた。そのころを彷彿させるようなバンドが現れている。当時はフォークを音楽ルーツにして、サイケ、エレクトロニクス、インプロなどの要素を取り込んでサウンド構築していた。今はそれぞれに独自の音楽ルーツがあってそれらが一体となったときに、偶々フォークになってしまった感じもする。代表的なバンドの一つが、スウェーデンのEnhet För Fri Musikであります。彼らの場合、インダストリアル、ノイズ、アンビエント、ポストロックを音楽ルーツに持っている各メンバーが集まって不思議なフォークの世界を築き上げている。レーベル側もこうした流れ捉えて様々なフォーク的なサウンドをリリースするようになっている。
これまでChocolate Monk、Kyeからリリースしたこともあった。2020年にイギリスのPenultimate Pressからリリースされた “A Year Closer” でやっと注目を浴びるようになる。2023年後半にリリースされた新作 ”Cycles Of Tonite“ も同じくPenultimate Pressからのリリースです。このレーベルはアヴァン・ギャルドなコンテンポラリー作品を中心に扱っていて、その辺りも興味深いです。今回は、この2作を取り上げます。
Maths Balance Volumes / A Year Closer
A Year Closerのタイトルが、このアルバムのテーマを示している感じです。1曲目 “The Mask Isn't Working” 、2曲目 “Dark Sky” からは、世界に対する警告メッセージのように聞こえる。ラスト曲 “Over The Hill” ではもう終わってしたような退廃的雰囲気を醸し出している。これらをフォーク、ブルース、インプロからノイズ、物音までもごった煮したロー・ファイな世界。ネガティブでエクスペリメンタルであるけど、男女2人のヴォーカルが、幻想の世界から現実へと引き戻してくれる鮮烈な1枚。ちょっとヤバいです。
Maths Balance Volumes / Cycles Of Tonite
前作 “A Year Closer” の流れを引き継いだ新作 ”Cycles Of Tonite“ です。ただ、退廃的な雰囲気を残しつつ、1曲目 ”Stay“ では、何があってもここに居るといったメッセージのようにも聞こえます。ロー・ファイでシンプルでありますが、一つ一つの音を活かしつつ、いい感じでヴォーカルが絡んできます。5曲目Egyptian Weddingでは、工業地帯の物音をバックにアカペラで歌い上げています。ラスト曲 ”I’ll Know You“ は、2人のヴォーカルがお互いの特性を活かしたアンサンブルで穏やかに終焉を迎えています。このアルバムも素晴らしいです。
Cycles Of ToniteのBandcampでは3曲しか公開になってないので、文中で取り上げた2曲をYouTubeでアップしておきます。
数多くの音源があったのでしょうね。クレジットにはCompiled By Mikel Acostaとなっている。Mikel AcostaはレーベルHegoa Recordsのオーナーであり、この人が選曲や曲順を決めたとされている。寄せ集めで様々な音源を収録しているが、John Coxonのやりたいことが凝縮された1枚だと思う。本人は「音楽とは、果てしなく魅力的で魔法のようなものだが、いまだに理解できない」とコメントしているようです。Vol.1となっているので続編も有りそうですね。
Jason Pierceと John Coxonの2人でThe Red Krayolaのカヴァーを行っています。
フォーク、ジャズ、ノイズ、ミニマル、ドローンなどを中心にエクスペリメンタルでオブスキュアな雰囲気を持ったDIY的ミュージシャンやバンドの音源を届けてくれる英国のレーベルHorn of Plentyに注目しています。このレーベルより昨年は、ベルリンを拠点に活動しているアウトサイダーミュージシャンNein Rodereを取り上げました。今回はニュージーランドの先住民族マリオをルーツにしているWilliam Henry Meungの “Hiraeth and Limerence” を紹介します。
William Henry Meung / Hiraeth and Limerence
William Henry Meungは10年以上前より音楽活動を行っていた。つい最近になってやっとカセット・テープを中心に作品をリリースし始めています。本作は昨年7月にリリースされた初のフルレングス・レコードで、2016 年から 2019 年にかけて録音されたアーカイブ音源です。リリース元Horn of Plentyは、何がなんでも新作に拘っている訳ではなく、内容のいいものはコンピレーション、リイシュー関係なく取り扱っている。
このころ本人は、精神疾患と闘っていた。10年近い闘病生活の中で録音されたのが、 “Hiraeth and Limerence” であります。宅禄で粗悪な録音環境の中で、ギター、ピアノ、ヴォーカル、自作の電子機器に加えて録音した機材から出るアンプハム、テープビズのノイズまでダイレクトに収められている。取り敢えずそのまま録音したチープな音源で、彼の精神状態を表した恍惚と絶望で揺れ動く心の思いが伝わってくる。
全14曲で4曲のヴォーカル曲が収録されている。センシティヴなメロディを淡々と歌い上げているが、これがLo-Fiインディ・フォーク的な雰囲気で最高にいい。最初に聴いたとき、寄せ集めでとりとめもなく曲が配置されていると思ったが、このヴォーカル曲をバランスよく挿入している。インスト・ノイズ曲との高低差も含めて、カオティックに鳴り響いている。聴き込むことで、統一感を持ったアルバムであることを確認する。レーベルHorn of Plentyのカラーが、凝縮された素晴らしい1枚です。
2018年リリースの傑作アルバム “Paradisiacal Mind” の勢いを止めてはならないと思ったJeffrey Alexanderは、定期的にアーカイブ音源や過去のライブ音源をリリースしていた。その思いが伝わったのか、2022年に7インチシングルを ”On a Clear Drop You Can See Forever“ をリリース。メンバーは直接会うこともなくフィラデルフィア、アムステルダム、サンフランシスコで録音された音源を基にオンラインで制作された。その時にDire Wolvesの再活動に期待してくれ!といったアナウンスもあった。そして、2023年11月にやっと新作 ”Easy Portals“ がリリースされたのでした。