ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

Maths Balance Volumesの奏でる退廃的なフリーフォークの世界とは!

このところフォークに凝っている。でも古典的なフォークではない。2000年代前半にフリーフォーク・ムーブメントがマニアックに盛り上がっていた。そのころを彷彿させるようなバンドが現れている。当時はフォークを音楽ルーツにして、サイケ、エレクトロニクス、インプロなどの要素を取り込んでサウンド構築していた。今はそれぞれに独自の音楽ルーツがあってそれらが一体となったときに、偶々フォークになってしまった感じもする。代表的なバンドの一つが、スウェーデンのEnhet För Fri Musikであります。彼らの場合、インダストリアル、ノイズ、アンビエント、ポストロックを音楽ルーツに持っている各メンバーが集まって不思議なフォークの世界を築き上げている。レーベル側もこうした流れ捉えて様々なフォーク的なサウンドをリリースするようになっている。

 

そんな状況の中、アメリカ・ミネソタ州マンケートを拠点とするMaths Balance Volumesを紹介します。2002年に結成して何度も活動中止をしながら、現在Alena Johnson、Clay Kolbinger、Jameson Sweigerの3人編成となっています。3人での画像が無く、あっても2人の顔の表情が見えないように黒塗りとなっている。

これまでChocolate Monk、Kyeからリリースしたこともあった。2020年にイギリスのPenultimate Pressからリリースされた “A Year Closer” でやっと注目を浴びるようになる。2023年後半にリリースされた新作 ”Cycles Of Tonite“ も同じくPenultimate Pressからのリリースです。このレーベルはアヴァン・ギャルドなコンテンポラリー作品を中心に扱っていて、その辺りも興味深いです。今回は、この2作を取り上げます。

 

Maths Balance Volumes / A Year Closer

A Year Closerのタイトルが、このアルバムのテーマを示している感じです。1曲目 “The Mask Isn't Working” 、2曲目 “Dark Sky” からは、世界に対する警告メッセージのように聞こえる。ラスト曲 “Over The Hill” ではもう終わってしたような退廃的雰囲気を醸し出している。これらをフォーク、ブルース、インプロからノイズ、物音までもごった煮したロー・ファイな世界。ネガティブでエクスペリメンタルであるけど、男女2人のヴォーカルが、幻想の世界から現実へと引き戻してくれる鮮烈な1枚。ちょっとヤバいです。

 

Maths Balance Volumes / Cycles Of Tonite

前作 “A Year Closer” の流れを引き継いだ新作 ”Cycles Of Tonite“ です。ただ、退廃的な雰囲気を残しつつ、1曲目 ”Stay“ では、何があってもここに居るといったメッセージのようにも聞こえます。ロー・ファイでシンプルでありますが、一つ一つの音を活かしつつ、いい感じでヴォーカルが絡んできます。5曲目Egyptian Weddingでは、工業地帯の物音をバックにアカペラで歌い上げています。ラスト曲 ”I’ll Know You“ は、2人のヴォーカルがお互いの特性を活かしたアンサンブルで穏やかに終焉を迎えています。このアルバムも素晴らしいです。

Cycles Of ToniteのBandcampでは3曲しか公開になってないので、文中で取り上げた2曲をYouTubeでアップしておきます。

 

Maths Balance Volumesは2作品で一つの物語を築いています。ライナーノーツでは、「最悪の事態を待ちながら、物事がひとつにまとまっていく。名もない私たちがリズムを持ち、時計の針が進むことを分かち合う。希薄だが確かな音楽を共有するのだ。たとえ電気をつけて誰もいなかったとしても」と書かれている。改めてMaths Balance Volumesの凄さを感じてしまった。

 

 

 

Enhet För Fri Musikについて書いています。