ディスカホリックによる音楽夜話

好きな音楽について駄文ではありますが、あれこれ綴って行こうかな。

Steven R. Smith、Glenn Donaldson、Brian Lucasによるユニット43 Odesの新作 “HWN UN AMN” に思いを寄せて…

このブログでは毎度お馴染みのSteven R. Smith。カリフォルニアのインディーズ・ポップ職人と言われるようになったGlenn Donaldson。Dire Wolves、Angel Archerのメンバーとして活動を行いながらソロ・ユニットOld Million Eyeとしても活躍しているBrian Lucas。この3人によるユニット43 Odesの2作目となる新作 ”HWN UN AMN” がEiderdown Recordsよりレコードでリリースされました。これはもう、取り上げるしかないです。個々のメンバーの音源やブログで取り上げた記事のシェアを含めて、43 Odesの思いを書いていきたいと思う。

 

3人は90年代のサンフランシスコを拠点とするサイケデリック・バンドMirza として活動していました。Darla Recordsより2枚のアルバムをリリース。当時のDarla RecordsSci-Fiスペース・ロックを中心にBliss Outシリーズとして興味深いバンドを数多く手がけていた。私は1997年リリースのデビュー・アルバムAnadromous (The Bliss Out Vol. 7)で、Mirzaの存在を知ったのであった。このカオスティックなサウンド、めちゃカッコいいです。この後、もう1枚アルバムをリリースして解散してしまう。

Mirza / Anadromous (The Bliss Out Vol. 7)より

 

 

Glenn Donaldson

Glenn Donaldson はMirza解散後の1999年に実験音楽家Loren Chasseと音楽コミュニティJewelled Antlerを立ち上げます。レーベルも運営して、自分たちの作品やこれだと思うインディーズ・バンドの作品をCDRにてリリースしていた。そのJewelled Antlerの中心的なバンドThujaにGlenn Donaldson、Loren Chasseらと共にSteven R. Smithも参加。サイケデリックなフォークドローン・ノイズを奏でていた。当時はフリー・フォーク・ムーブメントがコアに盛り上がっていたが、2000年代中頃にブームが下火となるとJewelled AntlerやThujaも役割を終えたようにひっそりと消滅する。

Thuja / Pine Cone Temples(Full Album)

ただ、ここで終わらないのが、Glenn Donaldsonの凄いところであります。彼はJewelled Antlerの時からDonovan Quinnと組んでいたThe Skygreen Leopardsをよりポップでサイケなフォークへと進化させ、その流れは彼の現在やっているバンドThe Reds, Pinks And Purplesに引き継がれていく。彼の周りには、いつも様々なミュージシャンが集まるようになり、いつしかカリフォルニアのインディーズ・ポップ職人と言われるようになっていく。今年になってCarly PutnamとのユニットHelpful Peopleもスタートさせている。

The Skygreen Leopards / The Jingling World of The Skygreen Leopards

The Reds, Pinks And Purples / The Town That Cursed Your Name

Helpful People / Brokenblossom Threats

改めて思ったが、Glenn Donaldsonを個別に取り上げたことが無かったのでした。今度、機会があれば書くしかないですね。

 

 

Steven R. Smith

もはや、孤高のギタリストではなくなったSteven R. Smithの2枚の新作! - ディスカホリックによる音楽夜話

Steven R. Smithについては、これまで何度も取り上げているので、それらを参考にして欲しい。ライブを行わずに様々な名義(Hala Strana、Ulaan Khol、Ulaan Passerine、Ulaan Markhor、Ulaan Janthina)を使って、1人でアルバム制作に没頭していったのであります。マルチプレーヤーで他者との交流もしていなかった彼のことを、私は孤高のギタリストと呼んでいた。リリース量も多くて、今年も既に3作リリースしている。9月にリリースされた最新カセット音源 ”Arroyo Tree Complex” をアップしておきます。


 

Brian Lucas

Primary

Brian LucasはMirza解散後、同じくMirzaのメンバーであったMark Williamsと組んでFather Beardとして活動していた。ただ、本人的には音楽から離れて自分を見つめ直す時間が必要とのことで、タイに移住して生活していたとも語っている。その時にソロ・ユニットOld Million Eyeを立ち上げている。2010年代中頃にDire Wolvesにベースとして参加。Mirzaのアルバム・ジャケットは彼のデザインであったことから、Dire Wolvesのアルバム・ジャケットも何作か手掛けていた。今年10月にDire Wolvesの新作 "Easy Portals" がリリースされました。


 

43 Odesの結成については、Glenn DonaldsonがSteven R. Smithに一緒にやろうといつも声掛けを行っていたようです。ただ、Steven R. Smithが拒否していた。特に仲が悪かったということではなく、心の準備が出来ていなかったとのこと。やっと2018年に2人でレコーディングが始まって、アルバム・ジャケットをBrian Lucasに依頼することで43 Odesが結成される。そのアルバムはEiderdown Recordsよりカセット音源として2019年にリリース。Jewelled Antler時代のThujaを思わせるような内容であった。その後、Steven R. SmithはBrian Lucasのソロ・ユニットOld Million Eyeのアルバム “The Incandescent Switch” にゲスト参加。心の病が無くなったSteven R. Smithは、昨年Glenn Donaldson、Brian Lucasらがゲスト参加したUlaan Passerine名義による大傑作アルバム “Sun Spar” を作り上げている。

43 Odes

Old Million Eye / The Incandescent Switch

Ulaan Passerine / Sun Spar

 

 

結局、43 Odesの新作について、ここまでのことを書かなくては、語れなかったのであります。

43 Odes / HWN UN AMN

 

本作はSteven R. Smithのスパイク フィドルバリトン プサルテリー、ブズーキ、ハーモニウムといった民族楽器を中心にして、彼のHala Stranaのような東欧フォーク的コンセプトを網羅している。それに対してGlenn Donaldsonはバンジョー、スペース ハープ、ギター、ベース、パーカッション、ドラム マシンを駆使してメロディーやリズムを引き出して曲のパランスを取っている。そこにBrian Lucasのテープ音源、ループ音源が色を添える展開となっている。

 

アルバムの1曲目 “HVO OV HVO” でGlenn Donaldsonの奏でるパンジョーが、ポップに鳴り響きながら、サイケデリックな世界へと導く。曲ごとにその風景を変えつつ、徐々にゆっくりと43 Odesの目指す桃源郷へと変化していくのが分かる。そして、ラスト曲 “UNU” で現実に引き戻そうとしている。この曲にBrian LucasのOld Million Eyeを思い浮かべてしまった。全曲インストで歌詞は無いけど、3人の吟遊詩人による思いが伝わってくる作品となっている。

 

Steven R. Smith

spike fiddle, baritone psaltery, organ, electric piano, bouzouki, harmonium, moog synth, electric guitar, spike cello, tapes

Glenn Donaldson

banjo, bowed banjo, space harp, guitar, bass, percussion, drum machine, synth, casio

Brian Lucas

tapes, loops, cover painting

 

Recorded by 43ODES

Mixed by Glenn Donaldson